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「本当に鬱陶しい」
……私はジュリー様に相当嫌われているみたい。
憎悪の感情も入っているように思える。……同族嫌悪としての憎しみかしら。
「嫌われることの楽しさはジュリー様が一番ご存知なのでは?」
私は更に煽りに火をつける。
煽るのが大得意の私は今の場面でこそ本領を発揮できる。
「本当に自分の命が惜しくないようね」
「大事ですよ。決して自分の命を軽んじているわけではないです。……人生はなるようになるので。自分の意志と決断で作り上げていくものだけど、大きな力には逆らえない」
「…………絶対的な権力とか?」
「はい。ウィルおじさんもいくら優秀で頭が切れても、ジュリー様の制裁を変えることはできなかったので」
「皮肉のつもり?」
私は暫く黙った。
彼女との会話はまるでチェス盤の上で駒を動かしているぐらい頭を使う。一つでも動かし間違えれば、ジュリー様は間違いなく口を閉ざす。
常に彼女の気を引いていなければならない。
「私はシーカー・ウィルという人間をとても尊敬していました。自分の運命を憎んでも、貴女を憎んだ姿を見たことがなかったからです」
「…………死んでもなお、鬱陶しいわね」
私は必死に頭を回転させた。
どうして、ウィルおじさんを嵌めたのか。それだけがどうしても腑に落ちない。
ジュリー様が息子――シーカー・ルークを王座につかせたい気持ちは理解できる。けど、その代償として、私のおじい様たちを国外追放させて、ウィルおじさんをあんな目に遭わせる……?
こればかりは、私の想像だけでは解決できない。
最愛の王妃を失くした前国王、悪役になったジュリー様、ジュリー様のいいなりになる国王、目を奪われロアナ村へ追放されたウィルおじさん、共犯者として国外追放となった三賢者。
…………………アリシア、考えるのよ。
何か、どこかに、キーポイントがあるはず。
「目」
私は独り言のようにそう呟いた。
……わざわざ、目をくり抜いた理由は?
手や足を切断でも良かったじゃない。魔力が強く宿っている目を切り抜いたのは、ウィルおじさんが魔力を失ったから?
最初、この話をウィルおじさんから聞いた時はジュリー様のことをなんて冷酷な人なのだろうと思った。一番惨いやり方を選んだのだと……。
けど、今私の目の前に立っている年老いた女性は冷血非道な人間には見えない。
必死に今まで読んできた書物を頭の中で呼び起こす。
目は……、目は何に繋がる? 魔力、完全消滅、…………そして、ジュリー様。
ロアナ村を見つめる彼女の背中を見つめながら、私はジュリー様の属性を思い出した。
………………毒魔法。




