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死か地獄か。
私は彼女の言葉を頭の中で繰り返した。
…………地獄がいい。生まれてきたのだから、死ぬまで生き抜いてみせる。生を全うしない限り、死んでも死にきれないわ。
私の人生は私が作っているのだもの。
「地獄を選びます。……ジュリー様もですよね?」
「ええ、そうよ。生きていればきっと良いことがある……、なんて馬鹿げたことは思わない。この世はずっと地獄だもの。地獄の中で這いつくばって皆生きている。貴女には貴女の、私には私の地獄を抱えている。…………彼が持っていた地獄を更に深くしたのが私よ。『死にたい』と思うほどの苦痛に溺れさせた」
「心地いいものでしたか?」
私は嫌な質問をする。
ウィルおじさんを地獄へと追いやったことに満足しているのであれば、もっと嬉しそうに話すはずだ。
彼女はずっと、窓の外を眺めながら「ええ、とても」と頷いた。
…………もう!!! この人は一体いつまで悪人ぶるつもり? 被害者ぶるのもあまり好きじゃないけど、加害者ぶるのも面倒だわ。
私は口を開こうとした瞬間だった。ピキッと音が鳴り、肌寒さを感じた。
…………デューク様。
一瞬で誰がこの場に近付いてきているのか分かった。物凄い魔力を体で察知する。
これは……、デューク様が王宮を崩壊させちゃう勢いね。私は自分の持っている魔力で部屋を覆おうとしている氷を一瞬で消す。
デューク様がこの部屋に来ようとしているのを、私は残りの魔力全てを使って阻止した。
まだ、私にここまでの魔力が残っていたことに驚いた。紫色と黒色が混じった私の魔力がデューク様の元まで届き、彼を落ち着かせる。
「…………デュークの助けを拒むなんて貴女ぐらいでしょうね」
「今はジュリー様とお話しているので」
「本当に変わった子ね。私と話したいなんて物好きはいない。それも、大罪まで犯して……。私に命を賭ける価値が本当にあると思ったの?」
私に命を賭ける必要などない、と言っているように聞こえた。
彼女の言葉から含意を汲み取るのはそこまで難しいものではない。意外と分かりやすい人だ。
周りを遠ざけることで自分自身を守ってきたのだろう。
「死ぬ覚悟がなかったなんて言わせないわよ」
「ないです」
生半可な覚悟で挑んでいるわけではない。けど、私は悪女よ。最高のエゴイストなんだから!
そして、またジュリー様もエゴイスト。
もう大人しくしているのは終わり。ここからは私のターンでいかしてもらう。
「本当はウィルおじさんを死なせたくなかったのでしょう?」
「生きている間、ずっと苦しませるために」
「なら、どうしてこんな部屋を? ウィルおじさんの苦しんでいる様子を見れるわけでもない。それなら、目をくり抜いた後、牢に死ぬまで入れたままの方が良いのでは?」
私はジュリー様の言葉に被せるように言葉を発した。
「肝が据わっている聡い女の子、本当に目障りね」
「お褒め頂きありがとうございます」
私はジュリー様の背中に向かってニッコリと微笑んだ。




