524
私には分からない。
ジュリー様の気持ちなど少しも分からない。少しでも大切にしているのなら、目をくり抜いたりしないはずだもの。
それに、私のおじい様方もラヴァール国に国外追放されてしまったし……。
きっとその事実は皆冤罪だと知っている。……ただジュリー様の言うことには逆らえなかった、という状況だったとしか思えない。そして、それをジュリー様は自覚していた。
「あの人が最も愛した女の息子など、好きになれるわけない」
前国王のことかしら……。
なんだか、ジュリー様はウィルおじさんを嫌いになる理由を探しているみたい。
「私はあの人に真に愛されたことなど一度もない。……私だけが愛していたの」
今までジュリー様を不憫だと思ったことなどなかったが、少しだけ、ほんの少しだけ不憫に思った。
結婚した相手が……、生涯を共にする相手が自分のことを愛していない。独りよがりの愛だけがそこに残るのはどんな感情になるのだろう。
安直な表現になるが、辛さと苦しみに覆われて息ができなくなりそうだ。
しかも、こんなに大きな王宮の中で一人ぼっちだなんて耐えられない。ジュリー様が「ルークを守る」という気持ちが誰よりも強かったということは理解できた。
ただ、ウィルおじさんがジュリー様にとってそこまで消えてほしかった理由だけは分からない。
「魔法の使えない男なんて、この世界に必要ないでしょう?」
本来ならここで怒鳴ってもいいぐらいなのだろうけど、何故かそんな気にはなれない。
嫌悪感がこもっていたけれど、私の心はただ冷静に彼女の話を聞いていた。
「まぁ、いいわ。……貴女、この罪の重さを自覚しているの?」
「はい」
「極刑よ? デュークの想い人だろうが関係ない。私は容赦しない」
「はい」
「ウィリアムズ家の名前に泥まで塗って……、ここまでする理由などないでしょう。もっと賢い女の子だと思っていたわ」
「……会ってみたかったんです」
数秒間、その場は静寂に包まれた。「なに?」という小さな声がジュリー様の口から零れた。
「私の祖父やウィルおじさんを地獄に追いやった人間に一目でも会いたくて……」
嘘ではない。……だが、全て本当かと言われれば、そうではない。それでも、理にはかなっている。
「だから、彼と同じ罪の被り方を?」
私を嘲笑うような言い方だった。それには何も答えず、そのままウィルおじさんの事件の話へと流れを持っていく。
「あの時はジュリー様が仕組んだものですよね?」
「ええ、そうよ。そんなのは、周知の事実。それがなに? 私を殺したいの?」
「……相手に最も苦痛を与える方法をとったのだと思っていました。ウィルおじさんの生きる希望を奪い、その中で生き続けさせることなんて地獄だもの。けど、ジュリー様の前から消したいのであれば、ウィルおじさんに与える罰は『死』で良かったのでは?」
そこまで憎んでいるのであれば、本当にこの世から消し去った方が心はスッキリするはずだ。
彼女が生涯悪役を貫くのなら、それでいい。ただ、私は真相を知りたい。
ジュリー様に背中越しにするどく睨まれているようで、私は思わず後退りそうになった。私に対しての威圧はやはり凄まじい。
「…………死か地獄か、の二択だったら貴女はどちらを選ぶ?」




