523
私に対する完全なる敵意がそこには詰まっていた。
思わず身震いしてしまう。彼女は本当に私のこと嫌いで、消したいと思っている。
「この世からいなくなって、今はさぞ気分がよろしいことでしょうね」
自分のことからウィルおじさんの話へと話題を戻す。
今は私が彼女からどれだけ嫌われているかが問題ではない。いや、まぁ、それも重要だけど、今はそれよりもジュリー様の心の内を覗きたい。
「……貴女の意図が分からない。私を怒らせたいの?」
なんと答えるのが正解なのか……。ここでジュリー様の本音を知りたい、なんて言ったら絶対に教えてくれないだろう。
「ジュリー様の敵意が私に害を及ぼすと困るので」
私はにこやかに嘘をつく。少しだけ笑顔が引きつってしまったかもしれないけど、及第点としたい。
「それだけの理由で私に関わろうと思ったの? ……愚かな娘」
「実際、私を消そうとしましたよね?」
学園で起こった不可解な出来事もあった。
「ええ、気に入らない者は排除する」
否定せずに、彼女は強い口調で言い放つ。
今までだってずっとそうしてきた、と言っているように感じ取れる。まるで自分に言い聞かせているみたい。
私がここで悪女っぽい一言でも放てたら………………。
ああ!! そうだわ!
「私に何かすると、デューク様に嫌われますよ?」
孫に嫌われるのはかなり痛手のはずだ。私は必殺デューク様を召喚する。
「デュークに嫌われようが嫌われまいがどうだっていいわ。今だって、ルークに嫌われているもの」
……あら、デューク様、効力がゼロです。もう少し粘ってくださいよ。
それにしても会話をすればするほどジュリー様は不思議な人だ。まだずっと彼女の後ろ姿を見ているだけなのに、そこまで怖い人だとは思えなくなってくる。
言っていることは最低なんだけど……。
「『母親』とはどういうものか貴女には分からないでしょうね」
分からない。分かるわけがない。
母親になったことなどないのだもの。母親っていうのは、子を持つとなれるものではないの?
「ウィルに嫌われるのが最善だった」
誰にとって? とは聞かなかった。
ウィルおじさんにとって、それが最善だったのだろう。
だって、窓に微かに映っているジュリー様の表情がとても切なかったから。
そんな表情をする人が自分のためにウィルおじさんに嫌われたとはどうしても思えなかった。




