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王宮から少し離れたところで 馬車を止めた。
ここからはそれぞれ別行動になる。闇魔法同士だと発動する便利な魔法がある。
それが! 脳内で互いに会話ができる! という魔法。あまり知られていないし、私もさっきまで失念していたが、思い出した。
『聞こえますか?』
私はお兄様方三人に脳の中で話しかける。
『ああ』
『聞こえてるよ』
『凄いなこれ』
三人それぞれが反応してくれる。
私たち、最強のスパイ集団になれそうな気がするわ。
「こんな夜中に馬車を走らせた御者にはなんて言うんだ?」
ヘンリお兄様の言葉に私は口角を上げた。
私は馬車についている小さな窓を開けて、御者に向かって声を掛ける。
「ロゼ、このことは口外禁止よ」
「もちろんです、お嬢様」
最も信用できる侍女に頼んだ。ロゼッタは何があっても私の味方だ。
ロゼッタに裏切られるのなら、それはそれで私の鑑識眼が甘すぎただけ。
「私たちが馬車から下りたら、屋敷に戻って良いわよ」
「承知いたしました」
完全にウィリアムズ家の身内だけで企んでいる計画。
いつもなら、絶対にジルがいるし、なんならデューク様も共犯者。けれど、今回は一切他の手を借りない。
……普段と違うスリルの感覚にワクワクしちゃうわね。
「では、行きましょう」
私はそう言って、馬車を降りた。
私を含めて、四人がそれぞれ違う道へと素早く進んで行く。流石は五大貴族で鍛錬を積んできただけのことはあって、誰もが無駄のない動きをする。
それと同時に馬車がその場から去って行く音が聞こえた。
それぞれ王宮を囲むようにして忍び込んでいく。たったの四人だけど、同じところに四人集まるよりかはバラバラになった方が効率が良い。
この場所から一番遠い所の配置にいるのが私。この中で誰よりも早く走らなければならない。
誰かに見つかってしまえば、そこで計画は強制終了。
そんなへまはしない。
『こちらアラン、到着』
アランお兄様からの報告が脳内に響く。
本当に五大貴族の子息と令嬢が何をやっているのかと面白くなってきた。前代未聞のこの計画をデューク様なら笑ってくれそうだ。
私はそんなことを思いながら、目的地まで必死に走った。
『ヘンリ、到着』
『アルバート、到着』
後は私だけ。
……私が忍び込む方面はデューク様の部屋がある方だ。
何としてもバレないように忍び込まなければならない。存在感を完全に消すことは可能だけど、私にとっての最大の問題はデューク様。
彼はいつも私の上にいるのだもの。簡単に見つかってしまいそうな気がするのよね。
……ダメよ! 弱気じゃ!
今回はデューク様に勝ってみせるわ!
『アリシア、到着いたしました』
私は王宮の壁に背中を添わせて、お兄様方にメッセージを送った。




