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「本当にこの計画で行くのか?」
アルバートお兄様は不安げな表情を浮かべて私を見ている。
正直、計画を実行するには早すぎるかもしれないけれど、今晩計画を実行する。
夕方に私はざっくりとした計画をお兄様方に伝えた。三人の表情はどんどん複雑になっていたけれど、最後まで話を聞いてくれた。
もっと念入りに計画を立てた方が良いのかもしれないが、そんな時間はあまりない。
私はデュルキス国からもうすぐ去るのだから……。ラヴァール国へと行く前にこの問題は解決しておきたい。
それに、この計画の目的は「王宮を爆破!」ではなくて「ジュリー様と会う!」だもの。
計画実行日を先延ばしにしても、今行っても、何も変わらないわ。
「ええ。闇魔法を駆使して王宮に潜り込みましょう」
私はニッコリと微笑んで、馬車へと乗り込んだ。
その後に、お兄様方も一緒の馬車に乗り込む。私の隣にヘンリお兄様。前にはアルバートお兄様とアランお兄様が座っている。
私たち四人とも、フードのついたマントを被っている。この暗闇に溶け込める色に、顔は見えない。
なんとも悪党みたいで素敵! それにお兄様方を共犯者にさせてしまうなんて!
誰かに今夜のことを書き記してもらいたいわ。私が兄弟三人を巻き込んで、王宮爆破計画を立てていたってね!
本来の意味はどうだっていいの。ただ、私はこの時代にウィリアムズ・アリシアの悪女としての歴史を刻んでいく。
そのために、沢山頑張って来たのだもの!
「怖いですか?」
ずっと黙っているアランお兄様へと声を掛ける。
「いや、不思議と恐怖心はない。ただ……、いや、なんだか、大犯罪を犯すというのに恐れを抱いていない自分に驚いているだけだよ」
「……私がいるから恐れるものなんて何もないでしょう?」
私は静かにそう言った。
ウィリアムズ・アリシアの存在がお兄様たちの恐怖を消している。
なんたって、私よ?
この悪女さえついていれば、悪いことなどなにも怖くない。全て私のせいにできるもの。
私の言葉にアランお兄様は「ハハハッ」と声を上げて笑った。笑い終えた後に、アランお兄様は私へと視線を向ける。
その私のことを知っているかのような視線に私は思わず固まってしまった。
「背負っているものが違う」
「え?」
「覚悟も何もかも、俺たちとアリシアはずっと違った。アリシアの行動力はすごいと思うが、それを真似しようなどと思わない。自分の手で世界を変えたいなどとは全く思ったことがない。俺はこのさほど大きくない世界で生涯を過ごすことに何の不満もないからな。……アリシアの正義もリズの正義も美しいものだと思う。ただ、それは憧れでなく、敬意だ」
アランお兄様の声が馬車の中で響き渡る。
誰もが彼の言葉を黙って真剣に聞いていた。私はアランお兄様を見つめながら、アランお兄様ではないお兄様の名前を呼んだ。
「……ヘンリお兄様」
「なんだ」
「私は今初めて、ヘンリお兄様とアランお兄様が双子なのだと実感いたしました」
「……俺もだよ。」
それは、とても温かい声だった。




