513
「それが頼みごとをする奴の態度か?」
眉間に皺を寄せて、アランお兄様は私を睨む。
この目を向けられるのは久しぶりだ。デュルキス国に戻ってきて以来、こういう目を向けられることはなかった。
「アランお兄様は私の言うことを聞くしかないんですよ」
「俺がこの計画に乗るか否かは自分で決める」
「いいえ」
私は間髪を入れずにそう言った。
「お兄様に決定権はありません」
「頼みごとなのにか?」
「はい。……と言うより、これは脅しです」
私はフッと軽く笑う。
アランお兄様の弱みを握っているわけではないが、ここでアランお兄様に欠けられるのは困る。
「ウィリアムズ・アランの名を地に落とさないためにも、私に逆らわない方が賢明です」
「馬鹿馬鹿しい、付き合ってられるか!」
アランお兄様は声をあげて、勢い部屋から出ていった。
特に止めることもなく、私はお兄様が出ていくのを見ていた。
「アリシア、もっと言い方があるだろう」
アルバートお兄様は落ち着いた様子で口を開いた。ヘンリお兄様はいつものことだなという感じで、アランお兄様が出ていったことに関して何も思っていないようだった。
「いいえ、私はこの計画に命を賭けてるの」
「そんな大袈裟な」
私はアルバートお兄様の目をまっすぐ見る。
「気の狂った、馬鹿げた計画でしょう? けど、私にとっては命を賭けるほどの価値がある。私がシーカー・ジュリー暗殺のための王宮爆破計画がどれほどの反逆罪になるか分かっていないと思いますか? デューク様に対しての裏切り行為にもなる。……それでも」
ここまでしないと、きっとジュリー様は現れないのよ。
今まで私たちの前に現れたことがないのだもの。ウィルおじさんと私が同じ状況にならないと……。
「それでも、私はもう決めたの。たとえ、これが刹那的に思った感情でも、その感情を守れるのは自分だけだから。だから、デューク様に嫌われたとしても私はこの計画を実行するわ」
「…………なんでアリシアが泣きそうな顔しているんだよ」
アルバートお兄様が切ない顔をして私を見ていた。
「アリシアの利己主義に最も傷ついてるのがアリシアなんだよ」
ヘンリお兄様がボソッと呟いたのと同時に、バンっと扉が勢いよく音を立てて開いた。
私たちはその音に思わず体をビクッと震わせ、部屋に入ってきたアランお兄様を見つめた。
「アリシアが全て尻拭いしたら、俺らは妹を守ることができない。それが、兄にとってどれだけ屈辱的なことか分かるか?」
私はアランお兄様のその表情で私に対しての感情を全て悟った。
…………アランお兄様が私に対して抱いていた怒りは実力を馬鹿にされたことよりも「兄」としての役目を奪われたことだったのだ。
彼は私をちゃんと「愛しき妹」として見てくれていた。




