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「こんな馬鹿な話ってすぐに一蹴してしまいたいところだけど、アリシアが言うとさ、なんだか大丈夫な気がしてしまうんだよな……」
ヘンリお兄様は小さくため息をついてそう言った。
私の頼みごとに承諾してくれた、ってこと?
「ただし、命の危険を感じたらすぐに計画は中止だ」
私の表情がパッと明るくなったのを察したヘンリお兄様は厳しい口調で私にそう言った。
「もちろんです。アルバートお兄様とアランお兄様は?」
私は彼らの方へと視線を向ける。
真っ先に私の話に乗ってくれるのはヘンリお兄様だということは分かっていた。後は、残りの二人の兄たちを説得させるだけ……。
「なぜそんな計画を?」
アルバートお兄様は私にもっともな質問をする。
ヘンリお兄様が私にその質問をしなかったのは、私のことをよく知ってくれているからだろう。私が向こうみずな計画を立てるとは思わないからだろう。
理由を聞かずに私についてきてくれるヘンリお兄様はお兄様たちの中で最も好きだ。……兄弟に「好き」の優劣なんてつけるべきではないのだろうけれど。
「腑に落ちないことを明らかにしたいからです」
なんとも抽象的だな、と自分でも思う。けど、ここで詳細を彼らに言うわけにはいかない。
誰にも言わない。この計画の目的は私だけが知っている。ジュリー様の本音を知りたい、なんて曖昧な目的を言ったとしてもお兄様たちは「探るな」って言いそうだもの。
「アリ、いつからそんな考えをするようになったんだ? 流石に俺はこれには乗れない……。王宮を爆破なんて……」
「実際に爆破するわけではないので。ただ、爆破計画を立てているだけです」
アランお兄様が乗り気でないのはすぐに分かった。やっぱり、彼が好きなのはリズさんなのだと思う。
「同じぐらい罪が重いだろう」
「実際に爆破するのとしないのでは訳が違います」
「……俺は自分の名に泥を塗りたくない」
ごもっとも。アランお兄様の言い分はよく分かる。しかし、アランお兄様には強制的に参加してもらう。
ここで煽っても意味ないのだろうけど、私の中の「悪女」がお兄様を煽れと言っている。
「あら、アランお兄様、もうすでに名に泥をつけているでは?」
「なんだと?」
アランお兄様が不機嫌になる言葉は容易に思いつく。アランお兄様は私を「妹」として接しているが、「愛しい妹」とは思っていない。
未だにきっと「憎き妹」のレッテルが残っている気がするのよね。
「ウィリアムズ家で最も魔力レベルが低いのはアランお兄様でしょう?」
私は久しぶりに悪女の完璧な表情を浮かべた。
年下の妹にこんな目で見られるなんて、アランお兄様のプライドが黙っていない。
「アリシアのそういうところが俺は好きじゃない。人を見下したかのようなその態度……」
「けど、本当のことでしょう? 学力も魔力も、妹の私の方が上なのよ?」
なんだか久しぶりにこのモードに入った気がする。
やっぱり悪女っていうのは楽しいわね。私が最も向いている職業だわ!




