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この手紙を受け取ってしまった以上、私はゴードンさんに何か返さなければならない。
私、クシャナの願いもまだ叶えていないのに……。やり残していることが多すぎるわ。
朝から、自分に課せられた問題が山ほどあることを思い出す。それでも、今の最優先はジュリー様よ。
私はもうすぐ、デュルキス国から去る。だからこそ、はっきりさせておきたい。
廊下を駆け足で進み、朝の食事へと急いで向かった。
「お兄様方!」
こう言う時は、妹という立場を利用させてもらうわ。
前までは忌み嫌われていたけれど、今は違う。お兄様たちは、私を「悪女」として、あまり認知しないようになってしまったけれど、今はこれを利用するほかない。
私が勢いよく入ってきたせいか、食事中のお兄様たち三人とも驚いて私の方を見る。
両親は「今度は一体何をするの、アリシア」みたいな目で私を見ている。
「手を貸してください」
私は満面の笑みを彼らに向けた。
アルバートお兄様は嬉しそうな表情を浮かべて、アランお兄様はまだ私を不思議そうに見ていた。そして、ヘンリお兄様は……とてつもなく嫌な顔をしていた。
なんですか、その顔は。
可愛い妹が頼みごとをしているのだから、もっと喜んでくれても良いじゃない。……まぁ、この中で最も正解の反応はヘンリお兄様に違いないのだけど。
「明日は嵐かもしれない」
「そうだな」
ヘンリお兄様の呟きに、お父様が深く頷いた。
全く失礼な二人ね。もう少しアルバートお兄様とアランお兄様の反応を見習ったらどうなの。
「大人しく……って言葉が貴女ほど似合わない令嬢はいないわね、アリシア」
「あら、褒め言葉ですか?」
「もう貴女の都合のいいように解釈しなさい」
お母様はどこか呆れた様子でそう言って、紅茶を口に含む。
「……ジルはいなくていいのか?」
ヘンリお兄様の質問に私は少し申し訳なさそうに答える。
「今回は、ジルの出番はないのよね……」
ジルは不貞腐れるかもしれないけれど、ジュリー様は本当にジルに興味がないと思う。
貧困村出身の賢い少年より、五大貴族の三兄弟の方がまだ接触できるだろう。この作戦がうまくいくかは分からないけれど、しないよりかはする方がずっといい。
「俺たちは何をすればいいんだ?」
「その言葉を待っていました」
アルバートお兄様の言葉に私は口角を少し上げた。
ジュリー様、私も悪女をずっとしてきたんです。負けないわよ。




