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「アリシア! ちゃんと持ってきてくれた?」
ウィルおじいさんの家に入ると同時にジルが私の方へ近づいてきた。
私は鞄をそのままジルに渡した。鞄の中身は全て本。
十冊ぐらい持ってあの森を走ってきたのよ。筋トレを日々やっておいて良かったわ。
そうじゃなきゃ明日の朝肩が上がらなくなっているとこだったわ。
「有難う!」
ジルがそう言って私に抱きついた。
あら、もうすっかり心を開いてくれて、お姉さん嬉しいわ。
小さい子って一度懐いてくれるとすぐに仲良くなれるのよね。
ジルは早速本を読み始めた。
確かにウィルおじいさんが言った通り彼は賢かった。
発想力が凄いのよね。
なんだか私、本を持ってきてあげたり……、良い人になってない?
「アリシア、いらっしゃい」
そう言ってウィルおじいさんが温かいココアを入れてくれた。
随分前に私が家からココアパウダーを持ってきてウィルおじいさんに渡したのよ。
家に沢山あるのだからバレるわけないしね。
ウィルおじいさんはココアを知っていたけれどジルはココアって何か知らなかったみたいなの。
最初は少し警戒していたんだけど飲んだ瞬間、顔がパッと明るくなって、それからすっかりハマったのよね。
あの反応は可愛かったわ。
というよりジルって物凄く可愛い顔をしているのよね。
やっぱりゲームの世界だからかしら。不細工に出会った事がないもの。
私はジルが本を読んでいる横でウィルおじいさんとお話をした。
今日あった出来事を淡々と話した。
魔法学園の出し物をリズさんとデューク様がメインでする事になったのだけど、結局なんにも決まらなかった事も話した。
「出し物って一体どんな事をするもんなんじゃ?」
私は固まってしまった。
確かに、出し物って沢山あるわ。
私、てっきり舞台の話かと思っていたけど、もしかしたらご飯を出したりするものだったのかも……。
だからデューク様が不機嫌になったのかしら。私が真面目に考えていないと思われたんだわ。
出し物ってあまりにも抽象すぎるのよ。あの紙も悪いわ。
「舞台なのか、食べ物を出したりするものなのか分かりませんわ」
ウィルおじいさんが小さく笑った。
「じゃあ、まずそれを確認しないと」
「そうですわね」
私は勢いよく立った。
その振動で机が少し揺れて、ココアが数滴机の上に落ちた。
「明日もまた来る?」
私が出て行こうとしたら、ジルがそう言ったので、ええ、と笑顔で答えた。
私はアルバートお兄様に聞こうと思って急いで家に帰ったのだけど、今の時間は就寝時間だという事をすっかり忘れていた。
私は肩を落として自分の部屋に向かった。