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「づがれた〜〜」
私はベッドにダイブしながら声を出す。
あの会話の後、ゴードンさんに「また次回お会いしましょう」と言われて家に帰らされた。その際に、小さな手紙を一つだけ渡された。
ジルもギルバートにもバレないように私にだけ渡された。
……私一人の時に見ろってことよね?
正直、もう少し彼らと話したかったけれど、会長も暇ではない。帰らされたのはしょうがないけど、少しは進展した気がする。……ほんの少しだけだけど。
私は仰向けになり、手紙を天井にかざした。……なんの変哲もない無地の封筒。
けど、かなり古いもののような気がする。
これを渡されたってことは、ちゃんとゴードンさんとの交渉は成立したって解釈でいいのかしら?
まぁ、これがまだジュリー様についてとは限らないけれど……。
「開けちゃえ」
私は勢いで封筒を開けて、中に入っている一枚の紙を取り出す。
手紙の中に書かれている文字はいたってシンプルだった。
『私は生涯悪役でいい』
何よ、これ。
私は目を見開いたまま、その手紙をじっと見つめた。
悪役じゃなくて、ジュリー様はウィルおじさんにとって「悪」そのものだった。彼女は国王様であるシーカー・ルークのことしか考えていなかったじゃない。
こんなの、ずるいわ。それも、どうしてわざわざこの手紙をゴードンさんに送る必要があったのよ。
私はこの手紙を読んで、ジュリー様に対する怒りが湧いてきた。
今更、こんなこと知りたくなかった。ジュリー様の話を間接的にしか聞いたことがないけれど、どの話も彼女を好きになれるようなものでは決してない。
それなのに……、彼女が実際に書いたこの一言が私がジュリー様に対して抱いていた印象を一瞬にして変えてしまった。
「…………いや、まだ彼女が書いたメモだとは決まっていないわ」
だが、その美しく乱れのない字は気高き女性が書いたもののように思えた。
その時、ふと、私とジュリー様を重ねてしまった。
私は世間の目から見たら「悪女」であり、無責任で利己的な女だと思われているだろう。自分が手に入れたいものは必ず手に入れ、自分の目標のために周りの人間を利用している。
そして、孤独を贅沢なものであると理解している。
「私は生涯悪役でいい……」
ゆっくりともう一度ジュリー様が書いたであろう文章を読み上げる。
彼女の本当の姿は一体誰が知っているのだろう。私にはジルや仲間がいる。けど、ジュリー様にはいない。彼女が心の奥底で抱いている思いなど知っている者はいないだろう。
「三賢者が疎ましく、ウィルおじさんも邪魔だった。……ジュリー様がした行いは『悪』よ。それは間違いないわ。けど、その言葉だけで片付けてはいけない気がする」
彼女が今もなお守っている場所は、美貌だけでのしあがってこれるような地位ではない。
きっと、誰にも心を開かないと思う。けれど、本当に彼女に会って、話を聞いてみたいと思った。




