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少しだけゴードンさんとウィルおじさんを重ねてしまっている自分がいる。
彼の威厳の中にある包容力にどこか懐かしさを覚えている。
「ご令嬢様は、孤独を感じるんだ?」
私とゴードンさんが話し終えて、少し間を置いた後に、ギルバートが口を開いた。彼は最初からずっと私にため口だったせいで、別に何の違和感も抱かない。
本来なら、ギルバートの地位で、五大貴族の令嬢にため口なんてあり得ないのだけど……。
孤独……。
彼の口から出た言葉が私の脳内でもう一度再生された。
どうしてさっきから概念についてばかり質問されるのかしら。この質問で私がどういう人間なのか評価されている……?
「またお前はそんな質問を……」
ゴードンさんは呆れたようにそう呟く。私はギルバートの目を真っ直ぐ見つめる。
彼の瞳は私をからかっているようには見えなかった。本当に私が「孤独」をどう解釈しているのか知りたがっている。
「俺が満足する答えを返したら、ジュリー様でもなんでも、あんたが知りたい情報を教えるよ。……それでいいだろう、父さん?」
「ああ。……お前はアリシア様に敬語を使え」
「構わないわ。ギルバート、その言葉忘れないでね」
「もちろん」
彼はフッと口の端を軽く上げた。
孤独に対しての接し方や見解なんて人それぞれ違う。それを言語化して、彼を納得させなければならない。
……………………けど、きっと、彼、私に何も教えないつもりだわ。
そんな気がした。もし、彼が満足したとしても私に何の情報も与えないだろう。
ここは一度負けるしかない。どう足掻いても、ギルバートは私を勝たせるつもりなどない。それでも、私はここでちゃんと答えなければならない。
しょうがないわ。今回は負けてあげる。…………負け、というよりかは、勝つための第一歩だと思った方が良いかもしれない。
「孤独は他の誰のものでもない、個人に与えられた贅沢なものだと思うわ」
正直に自分の意見を言った。
いくらでも自分の回答を偽ることはできる。けれど、ここで嘘を言えばすぐに見抜かれてしまう。
私の返答にギルバートは目を見開いていた。
あ、ちゃんと驚いてくれるのね。……いや、でも、この驚き方、なんかおかしくない?
私の回答に満足してないふりぐらいはしておいた方が良いんじゃないかしら。
彼は数秒固まった後、大きな声で笑った。ずっと無愛想だった彼の破顔に私は思わずドキッとしてしまう。
……どういう状況?
私もジルもいまいちこの状況を飲み込めていない。
ゴードンさんも驚いた表情で私を見つめた後、ハハッと小さく笑った。その笑みは私を馬鹿にしているような笑みではないことは確かだった。
「俺はあんたには情報を教えるつもりは少しもなかった。確かに珍しい令嬢であることは理解した。だが、ほしいものを全て手に入れることができると思っている世界の連中はあまり好きじゃないからだ。だから、どんな回答がこようとも俺は満足するつもりなどなかった」
ええ、それは察していたわ。
私は心の中で頷いた。
「けど、こんな回答をされてしまったらなぁ……」
「どういうこと?」
ギルバートが心の内を話してくれているということは分かったけれど、彼の意図が未だに掴めない。
「孤独は贅沢なものであると言った人間を俺はもう一人知っている」
その言葉でギルバートが何を言いたいのか理解することができた。
「…………ジュリー様」
私の小さな声が部屋に小さく響いた。




