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歴史に残る悪女になるぞ  作者: 大木戸 いずみ
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「オージェス商会の信用はもう一度、自分たちで取り戻します。それぐらい出来ないようでは、ここまで上りつめることなどできないのですよ」

 ……それもそうだわ。

 私がオージェス商会のことを舐めていたのかもしれない。

「アリシア様は私に何を提供することができますか?」

「……私が?」

「そうです。貴女自身の価値を教えてください」

 静かな彼の要求に私は言葉を詰まらせた。

 私は今までそんなことを考えたことはなかった。

 リズさんと張り合う人物を目指して、世界一の悪女になるという志だけでここまでやってきた。

 私自身の価値は分かっていたつもりだったけれど、いざこうして言われてみると何も出てこない。

 屈強なボディーガード? 鍛え上げた魔法? ウィリアムズ家の資産? 

 …………自分の価値は自分で付けることができない。他者によって評価されて、初めて自分の価値が生まれる。

 だが、ゴードンさんが欲しいのはそんな答えではない。

 私自身が自分の価値をどう定義づけるのかを聞いているのだろう。……このイケオジ、嫌な質問してくるわね。

「私の価値は……」

 私はようやく口を開いた。私はゴードンさんを見据えた。

「ウィリアムズ・アリシアでいることよ」

「……ほう、それは五大貴族としての地位を指しているのですか?」

「ええ。けど、地位だけではないわ。私の経験や実力……、十六年もの間、ウィリアムズ・アリシアという人間を培ってきたの」

「…………なるほど。面白い答え方だ。……後、もう一つだけ質問してもいいでしょうか?」

「なんなりと」

「アリシア様にとって優しさとはなんでしょうか?」

 …………哲学のお勉強?

 私は突然のその質問に思わずキョトンとした表情をしてしまった。

 まさかゴードンさんと交渉するにあたって、「優しさ」について問われるとは思いもしなかった。

 私は「優しい人」ではない。だから、今までもそんな質問をされたことはない。

「優しさなんて……」

 私に聞かないでほしい。

 ジルは私の戸惑いをすぐに察したのか、私にしか聞こえないような小さな声で呟いた。

「大丈夫、アリシアは優しい人だよ」

 優しい、という言葉をかけられることなど嫌だったはずなのに、どこか胸が熱くなった。

 ジルが私に言った言葉はとても温かいものだった。

 ……いつの間にか、私はジルに助けてもらうようになったのね。

 ゴードンさんは私が国外追放されたことも知っていたし、私が世間から評価されているような存在でないということも知っている。

 だから、私にあえてこの質問をしたのだと思う。

「優しさは拒まないこと」

 私は小さく、けど、確かな声でそう言った。

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― 新着の感想 ―
リズさん連れてこいやぁ(げんなり) 優しさは弱さの対するシンパシーで成立するのであり、正義と同列の理想(ナショナリズム)の為にこそ構築された概念(社会性)である。よって本質的に悪女の領分ではない。が、…
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