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「よくご存じで」
ゴードンさんはビジネススマイルを作る。少しだけ空気が張り詰めた。
今朝、お母様の話で知っただけなのだけど……。
一度下がった評判をもう一度上げるのは相当難しい。崩れるのは一瞬なのに、築くのは時間がかかる。
「私がもう一度信用を取り戻しましょう」
「五大貴族の令嬢一人の力で急激に落ちている評判を元に戻せると?」
あら、そう来るとは思っていなかったわ。
流石商売人。たかが令嬢一人の力でどうにかなるとは思っていないわけか。
私も自分の力を過信しているわけではないが、それなりに影響力はある方だと思う。……いざって時はデューク様に頼ろうかしら。
たまには王子様を利用する悪女になっても良いわよね。
「きっと、デュークはめちゃくちゃ喜ぶだろうな」
私の考えを読み取ったのか、ジルはボソッと隣でそう呟いた。
この子、エスパーなの? デューク様関係はすぐに見抜いてくる。
「私、悪い女なんです」
だから、どんな手を使ってでも絶対にオージェス商会の評判を戻す。そういう意味を込めて私は含みのある笑みを浮かべながらゴードンさんを見た。
彼は私と目を合わせながら、暫くして表情を緩めた。
「国外追放された日々はどうでしたか?」
「……知っていたんですか?」
私は思わず目を見開いてしまった。
どうしてゴードンさんがそれを知ってるの?
私が国外追放されたって事実は国民は知らないはず……。
「こう見えて私も悪い男なんですよ」
「悪い男は自ら悪い男なんて言いませんよ」
「その言葉そっくりそのままお返ししますよ」
ゴードンさんはそう言って豪快に笑った。
「けど、本当にどうして……」
「情報屋ですら手に入れられない裏の情報まで私の耳に届く。この街で知らない情報など私にはないんです」
甘く見ていたわ、オージェス商会のトップ。
ギルバートは相変わらず興味なさそうにしている。
「国外追放された令嬢は信用できませんか?」
「まさか」
彼はそう言ってまた豪快に笑った。
不思議な人ね。この豪快な笑みに惹かれる。大胆で厳格な雰囲気。
「国外追放されて、またこの国に戻ったということが何よりも信用できる証です」
「なら、交渉は成立ですか?」
「いえ」
ゴードンさんは穏やかに断った。
……この男、一体何を考えているのよ。信用だけで交渉はできない……。
じゃあ、何が望みなの?
「貴女が聡明な方であるということは分かっております。カリスマ性があり、とても魅力的な女性だ。貴女についていきたくなる気持ちも理解できるし、一国の王子が惚れているのも分かります。しかし、私と交渉するのはまだ早い」
……分からない。それほど私を買ってくれているのなら、情報提供ぐらいしてくれても良いじゃない。
ジュリー様の情報がとても貴重なのは分かっている。
どれだけ調べてもほとんど出てこないもの。彼女の情報を握っているのはゴードンさんぐらい。
「どうしたら交渉していただけるのです?」
私もここで引くわけにはいかない。