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私は朝食を食べながら、ずっとジュリー様が発した言葉について考えていた。
ぼーっとしている私に家族やジルは心配そうに見ていたが、ヘンリお兄様が「まぁ、これがアリシアだろ」と言ってそっとしてくれていたようだ。
生き残りなさい?
生き残りなさいって死んでほしい人に言う言葉じゃないわよね?
けど、ジュリー様はウィルおじさんを追放したわけだし……。私のおじい様も……。
ジュリー様! あなたって! 難しいお方ね!
私は頭を抱えた。昨日からずっと頭を抱えている。頭を使うことは悪いことじゃない。
むしろ、思考を止めれば人間は衰える。だからこそ、考え続けることは大切! …………だけど、これは、もはやそこらの推理小説よりも難しい。
あまりにも難易度が高すぎる。というか、私は探偵ではない。ジュリー様の考えを推測できたとしても、それが真実とは限らない。
「どうしろっていうのよ~~」
私は思わず心の声を吐露していた。
……あ。
食卓が静まり返る。なんだか少しだけ気まずい雰囲気。
その沈黙を破ったのが母だった。
「甘いものでも食べて落ち着いたら?」
圧倒的なお母様の立場……。この家族で彼女に逆らえる人は誰一人としていない。
私はお母様の方へと視線を向ける。背筋が良く、美しい所作で朝食を摂っている。まさに「強い女」の象徴って感じがする。
「久しぶりに家族みんなが揃って食事をしているのよ。この時間を大切にしなさい。それに一つのことに焦点を当てすぎていると視野が狭くなるわよ」
ごもっとも……。ぐうの音も出ないわ。
「ロゼッタ、何かお菓子を持ってきて」
母は紙ナプキンで口元を軽く拭いて、近くにいたロゼッタにそう言った。ロゼッタは「はい、奥様」とすぐにこの場を離れた。
侍女に対する接し方も大貴族の夫人という気品がある。……やっぱり凄いわね、お母様。
「アリシアのお母さんってなんか……一番強そうだね」
「この家で一番強いのは我が母だよ」
ジルとヘンリお兄様がコソコソと話すのが聞こえた。
お父様はお母様の尻に敷かれているタイプだものね。……けど、実際そっちの方が家庭は上手くいくのかもしれない。
「そう言えば、母上。オージェス商会の評価が下がっているという情報を聞いたのですが」
アルバートお兄様のその言葉に私はハッとした。
そうだわ!! 街のハンカチ屋さんで出会ったじゃない!
ジュリー様についての有力情報を持っているかもしれない人物!
オージェス・ゴードン!!!