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私はゆっくりと息を吐き、本を閉じた。
あと少しだとわかっているけれど、最後まで読めない……。
頭中で整理することが多すぎる。私はぼんやりとした頭でジュリー様の言葉と表情をもう一度思い出す。
「ねぇ、デューク、アリシアが無反応なんだけど……」
「……一体何を見たんだ?」
「叩いて、正気に戻させた方がいいかな?」
「いや……、それは大丈夫だろう。アリシアのことだ。何か考えていると思うけど……」
「この本に呪われちゃったりしてないよね? ……じっちゃんが書いたものだから、そんなことはないと思うけど」
ジュリー様からウィルおじさんに対しての憎悪をそこまで感じなかった……。
これは予想外の展開だわ。きっと、ジュリー様はウィルおじさんを心の底から嫌っていると思っていた。
けど、もし本当に嫌いなら顔を見にくるなんてことはしないはず……。死んでいくと分かっているウィルおじさんに会いにくるなんて……。
ウィルおじさんがジュリー様に会ったのはこの瞬間だけ?
「あ〜〜〜! もう! 分かんない!!!」
私は頭を抱えながら大きな声を出した。
私の声量にデューク様とジルがビクッと驚くのが分かった。ジルが驚きながら口を開く。
「な、何?! 急に」
「ジュリー様に直接会わないと」
「ジュリーって……、国王の母親か」
「祖母のことについて何か書かれていたのか?」
「はい」
デューク様の顔が曇る。
孫にこんな顔をされてなかなかね。王家の王子なんてお祖母様から溺愛されて育つものと思っていたわ。
「会うことは可能ですか?」
「手は尽くしてみよう。ただ、どうなるか分からない。俺ですら数回しか会ったことがない。それに、ほとんど会話もしていない。父上が祖母と話しているところも見たことがないし……」
「もしかして、国王様はウィルおじさんに酷い仕打ちをしたジュリー様を恨んでいる、とか……」
あの王宮の中でそれほど孤立するって難しくない?
てか、学園でのあのネズミの死骸事件……。あれもジュリー様が関わっていたと風の便りで聞いたけれど……。
あ〜〜〜!! 本当に嫌になっちゃうわ!!
せっかくデュルキス国に帰ってきても休んでいる暇なんて少しもないじゃない。
……まぁ、それがいいのだけど。
悪女は常に何か追われていないとね! その上で、余裕を見せるのが大切なのよ。
私は「ふふっ」と笑みをこぼす。
ジルは心配そうに私をじっと見る。
「どうしよう、デューク。アリシアがついに壊れちゃったよ」
「そうか? 通常運転だろ」
「…………たしかに。いつも通りだ」
私、何か悪口言われてない?