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歴史に残る悪女になるぞ  作者: 大木戸 いずみ
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『彼女は私を睨みつけながら、その目はアリシア嬢のものかと聞いてきた。まさか義母の口からアリシアの名前が出てくるとは思いもしなかった。正直驚いたが、彼女のことだ。アリシアについては調べ上げているだろう』

 お互い会ったことはないけれど、存在は知ってる。

 ……むしろ、ジュリー様の場合、私が王宮に訪ねた時にどこからか監視していた可能性もある。

 なんだか奇妙な感覚ね。

『私が見えているのね、とため息をつく。義母の腹の内がいまだに掴めない。……このページに私の記憶を見せられるようにしておいた。アリシアの目に宿っている微かな魔力を使わせてもらった。微々たるものだが、これぐらいの魔法はかけることができる。このページに触れ、古語で、目覚めろ、と唱えなさい』

 ……ウィルおじさんは誰かがこの日記を見ることを想定していたんだわ。

 私は日記に書かれた通り『目覚めろ』とデュルキス国の古語で呟いた。

 その瞬間、頭の中にウィルおじさんの記憶が流れ込んできた。私がウィルおじさんになっている。そんな目線だった。

 本当に微々たる魔力を使った魔法……。本来なら、記憶を見せる際は客観視できるような魔法が多い。けど、これは主観的な記憶。

 いや、でも、私の目に宿った僅かな魔力でこの魔法を残せること自体に改めてウィルおじさんの凄さを感じた。常人ではないことは知っていたけれど……。

『死ななかったのか、死ねなかったのか、どっち?』

 私は初めて見るジュリー様の貫禄に驚いている。妾だというのにまるで女王のような雰囲気だ。

 想像していたよりもはるかに年老いていた。……昔、綺麗な方だったということは想像できた。けど、今の彼女は老女だ。

 美しく着飾り、威厳はある。ただ背中はやや曲がっているし、皺も年相応にある。彼女の表情から苦労してきたのだと分かる。

 それぐらい明るさは感じ取れなかった。

 彼女はただ私ーーウィルおじさんをじっと見下げている。

『両方です。死ななかったし、死ねなかった』

『……生きていて何よりだわ』

 ジュリー様は確かにそう言った。

 小さな声だったが、聞こえた。……どういうこと?

 戻ってこなければ良かったと言ったり、生きていて何よりって言ったり、めちゃくちゃ気分屋なの?

 混乱する私を置いて、記憶はそこで終わった。

「アリシア? 大丈夫? ぼーっとしてたけど」

 ジルは心配そうに私の顔を覗き込む。

 ……大丈夫、ではない。正直、私の精神は良くも悪くもこの本によってだいぶ蝕まれた。

 最後のジュリー様の一言で私の脳はショート寸前だ。処理しきれないぐらいの情報量が頭の中に流れ込んでくる。

 本当にジュリー様の腹の内が分からない。

 けど、あの時の表情はたしかに本当にウィルおじさんの生存に安堵しているように思えた。

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