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「ねぇ、ジル」
自分の声が震えるのが分かった。
「何?」
「ウィルおじさんは心の底から貴方を愛していたのね」
誰もが分かりきっていることだが、もう一度ジルにそう伝えたかった。
ジルは深い愛でずっとウィルおじさんに愛されていたこと……。幼い頃に家族を失っても、ジルには誰よりもジルを大切に想ってくれていた存在が、ジルが思うより遥か前からいたということ。
「なんて書いてあったの?」
「ウィルおじさんはジルと初めて会った時から、ジルをロアナ村から出そうと願っていたのよ。貴方の可能性を誰よりも信じていた」
きっと、ジルがこの本を読むにはまだ早い気がする。
今の彼が読んだら、また精神が崩壊するかもしれない。だから、私がウィルおじさんの想いを伝える。
「出会った時から? ずっと? けど、そんなこと一言も……」
ジルの瞳が潤むのが分かった。
「私がロアナ村に来た時に、ジルを私に売り込んだのはウィルおじさんなのよ。賢い少年がいる、と」
ジルは何も言わずに俯いた。
彼の頬に涙が伝うのが見えた。「アリシア」とジルは顔を伏せたまま私の名前を呼んだ。
「僕、じっちゃんの期待に、応えられた?」
「ええ、とても」
「……そっか」
デューク様がそっとジルの頭を撫でた。
ジルは私が想像していた以上の少年だった。ウィルおじさんはとんでもない素晴らしい贈り物をくれたわ。
私は本を読むのを再開した。
『アリシアというウィリアムズ家の令嬢がこの村に来た。デュークから言われてた令嬢とはこの子のことだろう。彼女を使えばジルを外に出すことができると思う。アルベールの魔力を彼女から少し感じた。懐かしい感覚だ。闇魔法を扱う者にもう一度出会える日が来るとは……』
『彼女はわしが想像していた令嬢とは随分と違う。きっと、大物になるに違いない。ジルをこの村から出すために利用しようと思っていたが、アリシアはこの村を変えてくれるかもしれない』
『アリシアは面白い。不思議な少女だ。彼女がいると昔の自分を思い出す。天才少女だ。どうかわしの二の舞にならないように慎重に魔法習得させよう』
『アリシアとジルの相性は良い』
『この本は日記なのか、何なのか……。どうせ誰も見ることのないものだ』
『ジルがこの村から去った。この日をわしはずっと待っていた。わしの役目は終わりだ。嬉しいが、少し寂しい気もする。我が子が巣立っていく時の気持ちが少し分かった気がする』
『ロアナ村は変わった。アリシアのおかげだ』
ペラペラとページを捲っていると、とても大きな文字が目に留まった。
『見える。私の世界が戻った』