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歴史に残る悪女になるぞ  作者: 大木戸 いずみ
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 ……もうジュリー様について書かれていないのかも。

 これ以上、ウィルおじさんの日記を読むのは心が耐えられなかった。それでも、私はページを捲り続けた。

 もしかしたら、何か手がかりがあるかもしれない。最後まで向き合わないと……。

 ここで逃げ出すなんてことをしたら、一生後悔するわ。

 この本が現れたということは、何か意味があるはずだもの。私が目を逸らすわけにはいかない。 

「アリシア、大丈夫か?」

 デューク様の優しい声が耳に響いた。

「大丈夫です」

 私はそう言った瞬間、自分が涙を流していたことに気づいた。

 ……あれ? 私、泣いてたの?

「無理しなくても」

「それでも読まないと」

 デューク様の言葉を遮るように声を発した。

 私は頬を伝っていた涙を拭いながら、続きを読んだ。

『ロアナ村は悲惨なところだ。目が見えなくとも、音や匂いで分かる。ここがデュルキス国だと思えない。これほどまでに危険な場所がこの国にあったとは……。文章で見たり、噂で聞いたりするのと訳が違う。ここに来て初めて、ここの凄惨さを理解した』

 実際に訪れないと分からないことが沢山ある。

 ウィルおじさんの文章は前よりか少し落ち着いているような気がした。ロアナ村に来て、生きることを諦めたのか、それともここの実態を知ることに少し興味がわいたのか……。

 前のような乱暴な筆跡ではなかった。

『この国の三賢者と言われていた者たちも国外追放された。ラヴァール国で生きているかどうかも分からない。きっと、彼らもわしは死んだと思っているだろう』

 お互いに死んだと思っていたものね。

 それに、ここから一人称が「わし」になっている。この村に来てから変わったのね。

『私がこの村に来る前に義母に何か言われたが、あまり覚えていない。色々なショックで記憶が曖昧になっている』

『この村に秩序は存在しない』

『ロアナ村の全体的な地理は把握した。目が見えなくても、分かることは沢山ある。王宮で体術や剣術を習っていたおかげで気配を読み取ることができるし、ここでわしが死ぬことはない。……不思議だ。死にたいと思っていたのに、今は生きることを考えている。人間は一瞬で死ぬが、野垂れ死ぬことは難しいものだ』

 この辺からウィルおじさんって感じがしてくる。

 あんなことがあったのに、性格が歪まなかったことに驚きだわ。

 私はどんどん本を読み進めていった。ロアナ村での生き方が詳細に書かれていた。どこに何があり、どんな人がいて、どう生き抜くか……。

 そして、ロアナ村を改善するための解決策も書かれていた。

 ……凄い。陳腐な言葉だが、ただ「凄い」という言葉しか出てこなかった。

『明日死んでしまうのに、学ぶ意味は? と小さな子どもに聞かれた。賢い思考をしていた。明日死ぬのではなく、明日を生きてしまった時のことを考えよ、と伝えた。何も学ばず、何も持っていなければ、君の生きている世界は狭いままだ。世界を広げよ、と。その子どもは顔を顰めながら、ロアナ村から出られないのに世界なんか広げられるか、と呟いた。幼い子が未来を諦めていることに対し、わしはどうすることもできない。どうか、彼をいつか世界に羽ばたかせてくれる者が現れることを心から願う。わしはずっとこの場所でいい。だが、この小さな灯火はこの窮屈な場所から抜け出し、大きな世界で燃え続けてほしい。子どもの名はジルといった』

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