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ウィルおじさんって私の中ではとても大人で、いつも気持ちに余裕があるお方だと思っていたけれど、この日記を読んでいると、ちゃんと人生に葛藤があったのだと人間味を感じる。
『義母はどうしても私を悪者にしたいのだろう。義母の望みは一体何なのだろう』
確かに、ジュリー様は一体何を求めているのかしら。
『私はもうこの国にいられないのかもしれない。義母の罠に嵌められた』
……国王暗殺を企てたと冤罪になった時だわ。
私はそのページをじっくり読み込む。
そこには私が知らないウィルおじさんの思いが、沢山詰め込まれていた。
ルークが義母の言葉に惑わされている。ルークの気持ちを蔑ろにしていたのかもしれない。ルークの良き兄になれなかった。そんな内容ばかりだ。
自分のことじゃなくて、全部国王様のことばかり……。
『義母に惑わされないでほしい』
強い筆圧でそう書かれていた。きっと、この本を国王様が見ることはないと分かっていて書いたのだろう。
『私は死刑か、それとも流刑か』
そのページの最後にそう書かれていた。
……その後、しばらくページが真っ白だ。
そうだわ、ウィルおじさんは目をくり抜かれて、目が見えなくなった。日記を書けない状態に……。
じゃあ、なぜ、この後もページが続いているの?
私は次にウィルおじさんが日記をもう一度書き始めたところまでページを捲った。
文章は斜めになっているが、それでもちゃんと書けている。
『ちゃんと書けているか分からない。アルベールが書けというからもう一度書き始めた』
私は指先でウィルおじさんの文字をなぞりながら彼の言葉を読んだ。
『視覚を失うということは、死んだも同然。魔力も地位も失った。暗闇の中でただ息をしているだけ。生きている価値などない。これほどまでにどん底に落とされるほど、私は何か悪いことをしたのだろうか。こうやって自分の気持ちを綴っているが、何の意味があるのだろうか』
どんどん筆圧が濃くなるその文章を読みながら、ただただ心が締め付けられた。
それでも書き続けてくれてありがとう、と当時のウィルおじさんに言いたかった。
『このまま私は流刑となる。それならいっそ死刑となった方が楽だった。もう未来のない私を殺してくれ』
どんどんページごとに文字が大きくなっていく。そして、この世に対しての憎しみを強く感じる。
『アルベールに生きろと言われた。いつか私の目を見えるようにしてくれる者が現れるかもしれないと……。そんな奇跡をどう信じろというのだ。この国のために生きろ、と。アルベールは私をどうしたいのだろうか。彼のことは信用できる。だが、彼の考えていることは分からない』
あのクシャナのところで修行した時に見たウィルおじさんの記憶……。
私はゆっくりとページを捲った。
『ルーク、まだお前に私に対しての愛が残っているのなら、どうか殺してくれ。頼む。最後の望みだ』