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私は急いでドレスに着替えて、髪をセットする。
身支度を終えると、駆け足で応接間へと急いだ。本はベッドの下に隠してきた。
コンコンっと応接間の扉をノックして、私は部屋の中へと足を踏み入れる。
「アリシア、準備できたのか?」
デューク様がからかうような口調でそう言った。
アルバートお兄様は楽しそうに微笑んでいる。二人はソファに向かい合って座っていた。
私はデューク様に「はい、もう完璧です」と完璧なスマイルを向けながら、アルバートお兄様の隣に腰を下ろす。
「今日はどういったご用件で?」
「会いにきた」
そう即答するデューク様に「アイニキタ」と私はそのまま言葉を返してしまう。
てっきり何かまた問題が起きたのかと思った。
「おい、他に用件があるだろ」
アルバートお兄様は呆れたようにそう言った。
……用件があるのね。そりゃそうよね、逆にデューク様がただ私に会いにきてお茶だけするような日々なんてもうこないかもしれない。
物事があまりにも目まぐるしく動いていて、次々と色んなことに巻き込まれている気がする。
私ってば、十六歳にしてはかなり経験豊富な方なんじゃないかしら。
「アリシアがラヴァール国に行く前に、一つ解決しておきたいことがある」
「メルの恋愛事情ですか」
「それはいつでもいい」
デューク様、メルはあなたの従者でしょ。もう少し興味持ってあげてもいいんじゃない。
「リズ派とアリシア派の争いが学園内で今もまだあるんだ」
「学園内で」
私はそんなことかと拍子抜けしてしまった。
てっきり、もっと大ごとかと思っていた。学園内の出来事なんて、国外追放された私にとってはあまりにも可愛い問題だ。
別に学園の生徒を全員敵に回しても痛くも痒くもない。……って、待って。
私派が多少いるのは知っていたけれど、そんな過激に揉め事を起こし始めたのって、リズさんの魅惑の魔法が解けてからよね?
「講和条約でも結ばせたらどうです」
私は適当に答える。国同士の争いではないが、それぐらいしておけば彼らは大人しくするだろう。
新ルールを作ればいい。
「意外と興味ないんだな」
「私も私でしなければいけないことが多くて」
「具体的には?」
「それは……」
私はデューク様の質問に乗せられて、ついジュリー様のことや昨日見つけた本のことを言ってしまいそうになった。
ハッと我に返り、コホンっと小さく咳払いをする。
「学園のいざこざを相手するほど暇じゃないってことです」
「折角悪女としての晴れ舞台を用意しておいたのに残念だな」
「どういうことです?」
私は思わずデューク様の言葉に眉を顰める。
悪女として活躍できるってこと……? 学生はすぐに噂を広めてくれる。私が悪女となれば、国中に広がると言っても過言ではない。
「それにアリシアなら、一瞬で学園のいざこざなんて解決できるだろう?」
デューク様は私を試すような視線を向ける。
煽られてる……?
「もちろんです」
私は満面の笑みで答えてしまった。
ついデューク様の挑発に乗ってしまったわ……。けど、そんな目で見られたら誰だって私と同じ答えになるわよ。
「本当にデュークは悪い男だよな」
アルバートお兄様の言葉を無視して、デューク様はティーカップを口元へ持っていき紅茶を喉に流し込む。
「おい、無視するな」
アルバートお兄様、お兄様もデューク様に遊ばれている被害者の一人です。
私は心の中でそう呟いた。