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「アリシア~?」
国王の母君ってジュリー様のことよね?
デュルキス国の三賢者をラヴァール国に国外追放し、ウィルおじさんの目を奪って、貧困村に送った人物。
「アリシアってば、聞いてる?」
どうしてそんな人物と会長が繋がってるの……?
というか、どうしてそのことを私に伝えたの。ゴードン会長の意図が全く分からない。
「アリシア!」
ジルの強い口調に私はハッと我に返った。
店の前で突っ立っていたから、集まって来た平民たちがじっと私を見ている。
こんなに注目されているところでぼんやりとしていたなんて……。
ジルは私の顔を覗き込む。
「大丈夫?」
「ううん、大丈夫じゃない」
「だよね、大丈夫だよね……、って、え?」
「私、とんでもない人物と接触してしまったかも」
「……誰のこと?」
「この方」
私は手に持っていた会長の名刺をチラッとジルに見せた。ジルはじっとその名刺を見つめながら、眉間に皺を寄せた。
「もしかして、さっき何か言われてた……?」
「国王様の母君を知っているみたい」
私の言葉にジルは言葉を詰まらせる。
……ここで急に大物の登場。まさかジュリー様を知る人と出会えるなんて思いもしていなかった。
カーティス様の好きな女性のタイプを聞き出しに行っている場合じゃない。
「ジル、帰るわよ」
「え、植物屋に行かないの?」
「そもそもこの状況じゃ動けないでしょ」
私はチラッと前にいる大勢の人たちを一瞥した。
ジルも彼らに視線を移し「確かに」と頷く。流石にこんなに目立ってたら、ポールさんにも迷惑をかけてしまう。
そういえば、街の人たちに注目されるのは初めてかも……。
貧困村と学園ではある程度「悪女」として認知されてきていたけれど、民衆に直接的にこうやって認知されるのは今までになかった。
彼らは私たちに何も言ってこない。ただ黙ってじっと私たちを見つめている。
「もう少しぐらい騒いでくれてもいいのに」
「アリシアに圧倒されて言葉を失っているんだよ」
私とジルはコソコソと会話をする。
「私ってば、そんなに綺麗?」
「うん、めちゃくちゃ綺麗だよ。自分の美貌をもう少し自覚した方が良い。あと、妙な貫禄がある。……高嶺の花的な感じの雰囲気」
ふざけて言った私の言葉にジルが真剣な口調でそう答えた。
まさかそんな風に返答されるとは思っていなかったから、反応に困る。
てっきり、「寝言は寝て言え」テンションで来るのかと思ったら、素直に褒められてしまったわ……。
よし! 早くここから去ろう!
恥ずかしさを誤魔化す為に私は街の人たちの方を向いて、淑女らしく微笑んだ。
「お騒がせしました」
それだけ言って、私は転移魔法をジルと自分にかけた。