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会長は感心する様子で私を見つめていた。
「アリシア様はとても聡明なお方ですね。いい意味で公爵令嬢の器ではない、というべきですかね。私も今まで色々な方と出会ってきましたが、貴女のような女性は初めてです」
「アリシアみたいな人が他にもいたら困るよ」
ジルが隣でボソッと呟いた。
会長に褒められているのは分かったのだけど、ジルにも褒められているわよね……?
「私はただ言いたいことを言って、生きたいように生きているだけ」
自分がしたいように生きている。
その点はハリスと変わらない。ただ、私の場合は自分のケツは自分で拭いてるわ。
「ああ、貴女とのご縁がなくなってしまうのは実に惜しいです」
会長は私をまじまじと見つめながら口を開いた。
ウィリアムズ家、ではなく、アリシア、との縁を惜しく思ってくれていることが嬉しかった。
「ねぇ、私のこと贅沢させてくれるって言ったわよね?」
女は憔悴しきったハリスを覗き込むように苛立ちの言葉をかけた。
……凄い険相。
そんなにハリスがオージェス商会と関係がなくなったことが気に障ったのかしら。
「ねぇ、どうしてくれるのよ。私たちの婚約はどうなるのよ……」
女の言葉にハリスは何も答えない。
さっきからずっと修羅場ねぇ……。空気が良くなることは一向にない。
この店の方々が一番迷惑しているわよ。……どんどん人は集まって来るし、収拾がつかなくなりそうだわ。
「俺は……、働くよ。過酷な労働だってするさ」
ハリスの言葉を聞いた女は露骨に「は?」と顔を歪めた。
その表情は今日見た中で一番醜かった。
「何を言ってるの? 働くですって? オージェス商会以外で?」
ハリスを嘲笑するような彼女の話し方は見ているこっちまで不快にさせた。
彼がオージェス商会じゃなくなった瞬間、一瞬で手のひらを返す。
「俺のこと愛してくれたのは、俺がオージェス商会の人間だったからか?」
「そうよ、当たり前じゃない。私が愛していたのはあんたの経済力よ。だから結婚を決めたのに……、ああ! もう本当に最悪だわ! それ以外にあんたに魅力なんかあるわけないじゃない」
「これは結構グサッとくるね」
彼女の叫びにジルは眉をひそめながら小さな声で呟いた。私は黙って頷いた。
「……俺はちゃんとメリーのことを愛していた」
あら、この方、メリーっていうのね。想像以上に可愛らしい名前。……勝手にイメージでジュリエットだと思っていたわ。
彼女はハリスの言葉を鼻で笑う。
「私のことを愛していた? 笑っちゃうわ」
「そんな愛し方しない方が良いと思います。貴女も条件付きで見られます」
ここでイザベラが口を開いた。
予想外の発言者に私は思わず彼女の方へと視線を移した。