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歴史に残る悪女になるぞ  作者: 大木戸 いずみ
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 私はイザベラに綺麗になったハンカチを渡した。

 イザベラは目を見開きながら、ハンカチを受け取る。私がウィリアムズ家の者だったことに驚いているのか、魔法を使ったことに驚いているのか分からない。

 ただ、彼女は「あ」とだけ声を発し、そのまま口を開いたまま私をじっと見ていた。 

 私はそっと会長の方へと視線を移した。

「ごめんなさい、私は慈悲深い女じゃないの」

 ウィリアムズ家とオージェス商会との関係がなくなることは会長の責任ではない。……けど、会長の責任でもあるのよね。

 息子を野放しにしたせいね。こんなに大暴れする前に縁を切るか、更生させるべきだった。

「当たり前のことでございます」

 少しだけ悔しそうな表情を浮かべた後、すぐに頭を下げた。

 もっと心の広い令嬢だったら、「これからを楽しみにしてるわ」なんて言って許すのだろうけれど……。私そんなキャラじゃないもの。

 というか、会長はこの業界をよく知っている。生半可な優しさで関係を続ける方が嫌だろう。

 今回の件は、親子にとっていい勉強になったんじゃないかしら。

 特に息子の方は……。己のしたことの重大さをちゃんと受け止めないとね。

「お前とはもう勘当だ。二度と顔を見せるな」

 会長の低い声が店に響いた。

 男は涙目になっている。何か言いたげだが、何も声が出てこないようだ。

 ……そりゃそうよね。ハンカチ屋さんに来た末路が勘当なんて想像できないわよね。

「あ、アリシア様、うちとの取引を」

「ハリス!! 無駄なことはするな! これ以上うちの名に泥を塗るな」

 会長の怒鳴り声に男はビクッと体を震わせ、硬直した。

 ハリス……さん、本当に能天気に暮らしてきたのね。何も知らない赤子みたいだもの。

「け、けど、俺、これから……、どうすれば?」

「働けばいいのよ。体があるじゃない」

 なんて馬鹿なアドバイス。

 けど、悠々自適と過ごしてきたお坊ちゃんには分からないのかもしれない。身を粉にして働くことが……。

「貴方、街の皆がこのお店のハンカチを嫌っている、みたいな言い方していたわよね?」

 私の質問に彼は黙ったままコクッと頷いた。

 会長が呆れたようにため息をつく。

「人は見たいものを見て、聞きたいものを聞く。同意見だけを求めて、それを『みんな』とまとめるなんて愚の骨頂よ。偏った情報に身を委ねることほど怖いことはない。もう少し視野を広げなさい。目を見開き、耳を傾けて、総合的に物事を捉える力を養いなさい。そのうえで、自分がどう動くか考えるのよ」

 私がそう言い終えると、ハリスは涙を静かに流しながら「すみませんでした」ともう一度私に頭を下げた。

 その姿は本当に反省しているように思えた。

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― 新着の感想 ―
認知バイアスですな。賢い人はこれを意識して情報精査する。
[一言] 素晴らしい追い込み方。かっこいい あとは息子の連れの女性にも制裁してほしい
[良い点] 最後の締めの言葉は本当に大事な言葉。 自分の都合のいい言葉しか聞けない者は多い。自分も気をつけないと。
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