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「……なんだと? もういっぺん言ってみろ」
男は今にも殴りかかってきそうな険相だ。
今、もし私の名前を出せばどんな反応をするのかしら。……けど、もう家名で黙らせるのはあまり好きじゃない。
「貴方たちとこの店の方たちじゃ、格が違うって言ってるのよ」
「俺らの方が下だって言いてえのか?」
私は「ええ」と満面の笑みを浮かべた。
「異質の文化に対する包容力、順応性のおかげで成功したのなら、それは立派なことだわ。貴方たち同様、多くの者たちが新しいものを恐れたり、嫌ったりする。その中で異文化を受け入れて、ビジネスにするなんて素晴らしいじゃない。もうすぐ貴方たちが笑われる番になるわよ」
私が淡々とそう言うと、店主が私の方をじっと見つめて「お客様」と呟いた。
わざわざこの店に足を運んで、暴言を吐くなんて、私達は愚か者ですって大声で自己紹介しているようなものだわ。
男女は私に嫌悪を示したまま、何も言わなくなった。
面白くないわね。どうせなら言い返してくれた方が楽しいのに……。
「戦い甲斐がないわね」
私がそう呟くと、ジルが小さくため息をついた。
「向こうが少し可哀想だよ。アリシアに勝負を挑んだ時点で負けが決まってるのに」
それと同時にまたチリリリンと扉が開いた。
「このバカ息子! どこで油を売っていたんだ! いっつも勝手なことをして!」
大きな声が店の中に響く。ガタイのいい白いスーツを来たダンディな男性が入って来た。
お洒落なのに、表情だけは怒りに覆われていた。
……息子って言っているってことはこの方がオージェス商会の会長?
渋い、という言葉がよく似合う雰囲気だ。……それにしても、息子がこれって彼も大変ね。
彼の後ろにはボディーガードらしき人たちが数人いた。
いざって時は後ろのボディーガードよりも会長の方がよっぽど強そうだ。
会長が入って来た瞬間、男は顔から色がなくなった。真っ青になりながら、「親父」と小さな声を漏らす。
男はキッと私の方を睨む。
「俺の商会で二度と買い物出来ないようにしてやるっ」
全て私のせいだといいたげな目だ。自分で蒔いた種は自分で刈り取ってほしいわ。
私は表情を変えることなく「あ、そう」とだけ呟いた。彼とただ会話をするだけで肩が凝る。
別にオージェス商会が使えなくなっても一切困らない。むしろ困るのは……。
「貴女は、ウィリアムズ家の……」
会長は私をじっと見つめ、目を見開いた。
彼の後ろにいたボディーガードたちも私が何者かを察したようだ。
親は優秀なのにね、と私は心の中で男に皮肉を呟いた。
「おい、親父! こいつが!」
会長はすがって来る息子を無視する。むしろ虫けらでも見るような目で睨んだ。
……本当に親子なの、この二人。
「輝く黄金の瞳に、艶やかな黒髪、その美貌」
「自己紹介が遅れました。ウィリアムズ・アリシアです」
私はそう言って、キラキラの笑顔を会長に向けた。