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久しぶりの街だ。
私は心を躍らせながら足を進めた。活気あるこの街が好きだ。
ここにいると、この国は良い国なのだと思える。
植物屋ぐらいしか、街での記憶がない。ほとんど関わってこなかったし、来ることもなかった。
貧困村に足しげく通っていたものね……。
「ねぇ、あそこ行ってみない?」
私はふと足を止めて、あるお店をじっと見つめた。
ショーウィンドウに美しく並べられた刺繍の入ったハンカチから目が離せなかった。
この街で何か素晴らしいものに出会ったような気がした。
「いいよ。別に寄り道しても誰も怒らないし」
ジルはそう言って、私と共にそのお店へとついてきてくれた。
ハンカチだけ売っている店って、とても珍しいと思う。少し興奮しながら、お店の扉を開けた。
チリリリンッと可愛らしい鈴の音が鳴った。それと同時に「はい」と可愛らしい声が聞こえてきた。
店の奥から、私と同じ年ぐらいの女の子が現れた。
……大人しそうな子。
栗色のふわふわとした髪をハーフアップにしていて、落ち着いている。その雰囲気からは品性を感じられた。
私が言うのもなんだけど……、とても育ちの良さそうな子ね。
お店の内装もとても綺麗で、洗練されている。……普通の街の中にあるのが浮くぐらいに。
高級街にありそうなところだもの。
「……綺麗な方」
目が合い、私が何か言う前に彼女が私をじっと見つめてポロッと言葉をこぼした。
あら、嬉しい誉め言葉。
私は「ありがとう」と彼女に微笑んだ。腐っても私は令嬢だもの。礼儀作法は完璧よ。
「あ、すみません、いきなり」
彼女はハッと口元を手で覆った。
「えっと、ハンカチをお探しですか?」
彼女は恐る恐る私を見つめながらそう尋ねた。
そんなに怯えなくてもいいのに、悪女だからっていきなり怒鳴ったりしない。
「素敵なハンカチが並べられていたから、少し気になって」
「ありがとうございます!」
私の言葉に彼女の表情がパッと明るくなった。
「貴女が作ってるの?」
私は店にあるハンカチを見渡した。
全てデザインが独特であまり見たことのない模様をしている。言い方を替えれば、デュルキス国の文化を感じられない。
「はい。私と両親とで作っております」
私は目の前にあったハンカチに触れた。
触り心地で良い素材が使われていることが分かる。作りもとても丁寧だ。
「このデザインは……」
「これは、その」
彼女は少し戸惑った様子で口を開いたのと同時に、チリリリンっとまた扉が開いた。
豪華な装飾品を沢山つけた男女がやってきた。
お金を持っていると一目で分かるけど……、何故かしら、全く品性を感じられない。
どこか驕った雰囲気に私は少し嫌悪感を抱いてしまった。
「いらっしゃいませ」
店の奥から店主らしき人が出てきた。きっと彼がこの子の父親なのだろう。顔はあまりにていないけれど、栗色の柔らかい髪がそっくり。
背が高く、優しそうな印象だ。