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旧図書室からでて、私とジルはカーティス様を探した。
とりあえず、直接本人に接触してみて様子を見るという作戦だ。
さりげなくメルのことを聞けるかは置いておいて、カーティス様が恋愛についてどんな印象を持っているのか聞いた方が良い。
メルとカーティス様が恋人同士にならなかったとしても、きっとメルはカーティス様にとって最大限に可愛い女の子でいたいと思う。
女の子ってきっとそういうものだと思う。恋をしたら、その人の思う「かわいい」に近付きたくなる。
彼の好みになるっていうのは、メルの脳内になさそうだけど。
「それにしてもメルがカーティス様のことを好きなのは意外だったわ」
「……そうかな」
「え、知ってたの?」
「知っていたっていうか、なんとなく?」
いつ、どこで、なんで? とかいっぱい聞きたいことはあったけれど、ジルの観察能力をなめてはいけない。
きっと彼の「察する」能力は誰よりも長けているのだろう。
「…………あ!」
本人に直接聞くよりも良いことを思いついてしまった。
ジルの観察能力について考えていたら、貴族の人間関係について良い情報を握っている人物がいるのを忘れていた。
「どうしたの?」
いきなり声をあげた私をジルは怪訝そうに見つめる。
「街に行こ!」
「ん? いきなり街?」
「ポールさんに会いに行くのよ」
彼なら間違いなくカーティス様の情報を持っているに違いない。
「……なるほど、それは確かにいい案かも」
「でしょ!?」
「でもアリシアさ、国外追放する前に屋敷で捕まって王宮に行く途中で国民にみられているでしょ。……その、大丈夫?」
「大丈夫って何が?」
悪女って思われているなんて最高じゃない!
なりたい自分に近付いているのだから。何を心配する必要があるのだろう。
「今までは学園だったけど、国民に敵意を向けられるって結構しんどいんじゃないかなって」
「あら」
私は思わず吹き出してしまった。
「ちょっと、僕は真剣に」
「ええ、分かってるわ。ありがとう」
私はジルの頭を撫でる。
まさかそんなことを心配してくれているとは思いもしなかった。
「私はラヴァール国に国外追放されて生きて帰って来た人間よ?」
私の言葉にジルは少しだけ固まり、「そうだった。アリシアってそうだった」と呟いた。
街の人たちに野次を飛ばされても、小さな虫たちがキーキー言っているぐらいにしか思わない。
「僕思ったんだけどさ……」
「なに?」
「アリシアぐらいだよね。護衛も侍女もつけずに色んな場所へ飛び出してるのは」
「飛び出しって……、赴いてるって言ってよ。別に私おてんば娘じゃないもの」
「令嬢は狙われるものだし、悪女も狙われるよ。それなのに、アリシアはずっとわが身一つで行動してるじゃん。アーノルドの苦労も分かるよ」
「だって、最初に一人で行った場所が貧困村だったんだもの。街なんて天国みたいなものでしょ」
「そりゃそうだ」
私の言葉にジルは深く頷いた。