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「ないですわ」
キャロルが即答する。メルは少しの間停止した後に、「ないよ」と笑顔で言った。
私の恋愛センサーが皆無なのにも関わらず、どうしてこういうところを見抜けてしまうのかしら。
メルの一瞬の動揺を私は見逃さなかった。
……けど、メルが恋愛なんて想像出来ないわ。意外な人が意外なところで恋愛をしているものなのね。
フィン様が恋愛していたということを知ってから、誰が恋愛していても、もう驚かなくなってしまった。
「私はずっとアリシア様に一筋ですもの」
キャロルのその言葉は嘘じゃないように思えた。
「私もだもん」
「メルの好きな人って誰?」
「え、ちょっと、アリアリ、私の話聞いてた?」
人の恋愛に首を突っ込むのは良くないのかもしれないけど、メルも私の恋愛事情に結構首を突っ込んでいるから、別に良いわよね。
少しぐらいはメルの恋愛も聞いてみたい。
「てか、メルって恋するタイプなんだ」
ジルは少し驚いた表情を浮かべながら、じっとメルを見つめている。
こんな風に真剣に恋愛について問われたことがなかったのか、メルは「だから、したことないって!」と大きな声を出す。
「てか、恋もしたことないジルに口出しされたくないし!」
メルの付け足しにジルは少し口を尖らした。
「僕に恋愛は必要ないんだよな」
「なにそれー! 恋愛は必要とか不必要じゃなくて、気付けばしてるものなの! 理屈じゃないの!」
……メルが恋愛の本質をついている。
黙っていれば乙女ガールに見えて、口を開けば毒舌ガールだったのに……。ちゃんと中身も乙女な部分があったなんて。
「僕は恋愛に自分の人生振り回されたくない派だから」
「アリシアに振り回されているくせによく言うよ! てか、恋愛に振り回されたこともないおこちゃまが偉そうなこと言わないで」
「僕はアリシアに恋愛しているわけじゃないからね。じゃあ、メルは恋愛に振り回されたことあるの?」
「あるから苦労してるんでしょー!!」
メルの声が部屋に響いた。その数秒後にメルは「あ」と口元に手を当てた。
ジルは「ほら、やっぱりあるじゃん」と少し口の端を上げる。
ジルの方が一枚上手だった。
「……アリシア、もしかしたら、メルの恋愛で悪女の印象を残すチャンスかもよ」
私の方へと視線を向けるジルに私は思わず眉をひそめた。
「恋のキューピットになれってこと?」
それって悪女から程遠くない? ……メルの方が見た目的に恋のキューピットっぽいし。
「まぁ、それに近いけどそうじゃない。それになんでも捉えようによっては悪女になるし」
「具体的に何をするの?」
「ちょっと! 私の恋を遊びに使わないでよ!」
立ち上がるメルにジルは悪魔のような笑みを浮かべた。
「……アリシアは悪女なんだから、人の恋を遊びに使うんだよ」
私より悪そうな表情を作るなんて……。ジルも侮れない。




