463 十六歳 ウィリアムズ家長女 アリシア
そんなにいばらの道を歩んでいる自覚はなかった。
私はそんなことを思いながら、私は部屋へと向かっていた。
ヘンリお兄様がフィン様とカーティス様を呼んだのだもの。元々私は邪魔者だった。
私抜きで話したいこともあるだろうから、空気を読んで私とジルは客間を後にした。
「ねぇ、アリシア」
「なあに」
「……アリシアはさ、いつか」
そこまで言って、ジルは話すのをやめた。
何か言いかけて、やめられることを私が嫌いだってことはジルも理解しているはず。
きっと、言葉を探しているのかもしれない。私は彼の言葉を黙って待つことにした。
まぁ、大体は予想できるけど……。
私とラヴァール国がどうなっていくのかについて聞きたいのだろう。
別に私は変わらないのよね。いつまでもデュルキス国ウィリアムズ家の令嬢よ。
どうして周りは私の変化をそんなに恐れているのかしら。私って、そんなに雲の上の人間じゃないわよ。
高嶺の花ってタイプでもないし……。やっぱり孤高の女王みたいな立ち位置が良いわよね。
そうなると、やっぱり目指すは悪女なのよね!!
「いつか」
ジルの言葉に私はハッと我に返る。
私ってば、すっかり意識が別のところにいっていた。
「いつか?」
「アリシアがいなくなったらさ、僕はどうすればいいと思う?」
…………あら、想像と違ったわ。
思わぬ質問に私は固まってしまう。ジルがどう行動すべきかなんて私には分からない。
何が正解かはジル本人が決めることだもの。
人生の選択肢の答えなんて私が出せるものじゃない。……けど、私はあの日――ジルの命を助けた日、彼の人生をもう抱えている。
私の勝手でジルを貧困村から出した。
ここで「それは自分で考えなさい」はあまりにも惨い。私は無責任な女になりたいわけじゃない。
「僕はアリシアに依存しているんだ。これは僕にとっては良いことなんだけど、アリシアからしたら迷惑かもしれない。この依存の仕方は傍から見れば重症なのかも。必死にそれを隠しているけど、僕はいつか依存という名の凶器に押しつぶされちゃうかもしれない」
私はジルの話を黙って聞いた。
ジルが私に依存しているようには思えなかった。彼は誰よりも自立した子どもだと思っていた。
けど、本人が言うのだからそうなのだろう。自分のことを一番分かっているのは、自分だけだ。
他人の私が否定するべきじゃない。
「僕の行動基準はほとんどアリシアなんだ」
ジルは最後に小さな声でそう呟いた。
私は廊下に立ち止まった。ジルも私に反応して、少し前で立ち止まり私の方を振り向く。
……私が聖女ならここできっとジルを解放してあげるのかも。
私という存在から自由に羽ばたかせて、本当の自分を見つける旅にでも行かせるのかもしれない。
けど、私はあくまで悪女なの。私のことをこんなにも想ってくれる子を手放したりなんてしないわ。
これからもジルは私の傍にいてほしい。……ジルが私を必要としているのと同様、私もジルが必要だもの。
「何を馬鹿げたこと言ってるの?」
ジルは「え」と目を見開き私をじっと見る。
私はフッと昔から散々練習してきた悪女の笑みを浮かべた。