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「果たせていない約束の為にラヴァール国に戻るのか?」
「端的に言えばそうなります」
ヘンリの言葉にアリシアは確かな声でそう言った。
アリシアらしい。……そのアリシアらしさを僕は応援したい。
少しの間、沈黙が流れる。
皆、きっとアリシアを止めても意味ないという気持ちと、それでもやっぱり行かせたくないという気持ちがあるのだろう。
だって、ここにいる皆アリシアのことが大好きだから。
折角帰って来たばっかりなのに、またすぐ消えてしまうのは寂しい。
「じゃあ、行ってこい」
最初に口を開いたのはアルバートだった。
その言葉に一同、彼の方へと視線を向ける。まさか後押しするとは思わなかった。
……これが長男なのかもしれない。妹想いだからこそ、この決断ができる。
アリシアは目をぱちくりさせながらアルバートの方を見ている。
当人もアルバートの言葉は想定外だったのだろう。かわいい子には旅をさせる精神は大切だ。
「……本当ですか?」
「ウィル様の死を悼むために戻ってきただけなんだろう。そしたら、気が済むまでラヴァール国でやるべきことをしてきたらいい」
「ちょっと、アル兄!」
「俺たちにアリシアの人生の邪魔をする権利はないんだよ」
アルバートはヘンリを見据えながらそう言った。
ヘンリは何も言い返せない。僕らは今までアリシアの勢いについてきた。それを阻む権利なんてない。
「……だけど、条件が一つある」
「なんでしょう?」
「ジルも連れて行くんだ」
アルバートのその提案に僕は思わず固まってしまった。
ああ、この人はこんなにも僕のことを考えていてくれたんだ。
それだけで胸が熱くなった。僕はこの家族に出会えて心の底から良かったと思った。
アリシアには返しきれない恩がある。けど、それと同時にこの家にもある。僕は一生ウィリアムズ家の味方でいよう。
アリシアは僕の方へとチラッと見た。その視線に少しドキッとしてしまう。
「ええ、もちろんそのつもりです」
「それは良かった」
アリシアはアルバートへと視線を戻す。
「むしろ、私がジルを置いていくと思ったのですか?」
「いや、思っていなかったが、念のためだ」
「……あとどれくらいここにいるんだ?」
ヘンリが会話に入る。
どうやらヘンリはアリシアがラヴァール国へと行くことを全力で応援しているわけではなさそうだ。
「…………一週間ぐらいはいます」
少し考えてからアリシアはそう言った。
本来ならすぐにでもラヴァール国へ向かうつもりだったのだろう。けど、ヘンリのことを思って、一週間ぐらいまで延ばしたのだと思う。
アリシアにとって、ラヴァール国での約束も大切だろうけど、それと同じぐらい家族のことも大切なのだ。
「なんか、やっぱりアリシアってよく分からないよね」
フィンの明るい声が部屋に響く。一気に部屋の雰囲気が変わった。
「そうですか?」
「うん。小さい頃から見てきたけど、どんな人物なのか掴めない」
「それは私の台詞です」
確かにアリシアよりフィンの方がよっぽど謎に包まれている。
関わってきた密度が違うからなのかもしれないけど……。
「ぬくぬくと何不自由ないお嬢様暮らしが出来るのに、わざわざいばらの道を行くなんて変わった子だよね」
「それもお遊びじゃないんだよな。まじのいばらの道」
フィンとカーティスは面白そうにアリシアを見ていた。