461
話についていけていない僕らにお構いなくアリシアは話を進めた。
「そこで森の女王に出会ったんだけど」
……なに、森の女王って。
動物と話すプリティプリンセスみたいな立ち位置? その人を助けたとか?
最初聞いていた時は背筋をピンと伸ばしていたが、今じゃもう体に力が入らない。
「その人にぼっこぼこにされちゃって! 殺されかけたのよね~」
ぼっこぼこ!?!?
小鳥と一緒に歌を歌っている僕の想像していた森の女王じゃない!
「本当に強かった。あの負けは因果応報だったのかも……」
アリシアが負けるなんて……。
「そこで弟子っていうのかな、彼女に鍛えてもらったの」
おっと、またここで急展開。
僕だけが心の中でつっこんでいるのかもしれない。隣にいるアルバートなんて、頭を抱えている。
「そこで戦ったのがリアルだけどリアルじゃないウィルおじさん」
ダメだ、僕も頭を抱える側に回りたい。
アリシアが話をするのが下手だと言っているわけじゃない。レベルが違い過ぎた。
僕ら凡人が全速力して彼女の話について行っても到底追いつかない。
「そこでも殺されかけて」
どうしよう。本当にわけが分からない。
じっちゃんと決闘したってこと? ……あ、だからじっちゃんは死ぬ前にアリシアのことを呟いていたのかな。
…………いや、でもそうだとしても意味が分からない。
この話は意味を理解しようとしない方が良いのかも。その方が賢明だ。
「それでデューク様とこっちに戻って来たの」
「うん、なるほど。…………とはならないよ!!」
僕はようやく大きな声を発した。
アリシアは僕を見ながら「ええ!?」という表情を向ける。その表情は僕たちがしたいよ。
逆にどうして今の話を僕らが全部理解出来たと思えるの……。
アリシアはヘンリの方を向く。
「クシャナ……、森の女王との約束も果たせてないし。やり残したことがまだまだラヴァール国にあるの。だから、私は何としてももう一度ラヴァール国に戻らないといけない。……理解して頂けましたか、ヘンリお兄様」
「いや、全然」
ヘンリは間髪を入れずにそう返答した。
またもやアリシアは「ええ!?」という表情を浮かべる。
僕らが想像していたアリシアのラヴァール国の生活状態を遥かに超えてきた。誰も何も言えない。
「……アリシアって本当に令嬢だよね?」
「ええ」
フィンの言葉にアリシアはにこやかに頷く。
フィンが言いたいことがとてもよく分かる。アリシアは令嬢なんだけど、令嬢じゃない。それでも彼女から醸し出される気品は紛れもなく高貴なものだ。
「アリちゃんって、女帝でも目指してるの?」
「女帝……。確かに良いかもしれませんね」
そうだよ、アリシアはここで女帝になることを否定しない女の子なんだよね。
カーティスは「アリちゃんならなれるよ」とケラケラと笑いながらそう言った。
そんなカーティスを見ながらアリシアは「からかわないでください」と少し頬を膨らましていたが、きっとカーティスのその言葉は本心からのものだろう。