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「なんだか、珍しいようで珍しくないメンバーだね」
僕はアルバートとアリシアの真ん中に腰を下ろした。
デュークとメルがこの場にいないことに少し違和感を覚えているのかもしれない。
「えっと、どこから話せばいいのかしら?」
「ライオンと仲良くなって、王族と絡み始めたって話だよ」
「そうだったわ!」
「え? ん? ……ちょっと待って」
僕は思わず話を止めた。
その軽い入りで僕は色々と聞きたいことが多すぎる。
アリシアがラヴァール国で平凡な生活を送っているとは到底思っていなかったけど、入りが強烈過ぎた。
「ジル、いちいちつっこんでいたらキリがないぞ」
ヘンリが眉間に皺を寄せながら深刻そうに僕を見つめる。
「……たしかに」
アリシアの話についていくことだけに集中しよう。
「あのさ、アリ」
ヘンリがアリシアの方へと視線を向ける。アリシアは「はい?」と小さく首を傾げた。
「ラヴァール国の魅力的なところを言おうとしてただろ?」
「あら、バレてました?」
「そりゃな。だって、ライオンと仲良くなるなんて普通じゃないんだよ。別にラヴァール国を良くみせなくていいから、俺らの頭でも分かるように説明してくれないか?」
ナイスヘンリ!
アリシアの話には絶対に説明が必要だ。事実だけをかいつまんで話されると、僕らは一生序章で躓くことになる。
「分かりました」
アリシアは少し考えてからそう言った。
客間に来る前にカーティスにどういう状況でこんなことになったのかは軽く聞いた。ヘンリがアリシアをラヴァール国にもう一度行かせたくなかったとか……。
僕もヘンリ派だ。彼の意見に便乗したい。
アリシアがもう一度デュルキス国から離れてしまうなんて考えたくない。出来れば、この国にずっといてほしい。
それか、僕も一緒にラヴァール国に連れて行ってほしい。
…………アリシアはそんなこと望まないのかもしれないけど。
「ただ、少し長いお話になるので省けるところはとことん省かせて頂きます」
そう言って、アリシアは話し始めた。
彼女の話を聞いていると、「なんでだよ!」とか「どうしてそうなった!?」とか言いたいところが山ほどあった。
それをグッと堪えて僕らは最後まで話を聞いた。カーティスやヘンリは途中から悟りを開いたかのような表情をしてアリシアの話を聞いていた。
彼らの気持ちがよく分かる。アリシアの話を真面目に聞いていたら、気がおかしくなりそうだった。
まず、闘技場で見世物としてライオンと乱闘して勝ったって何? そりゃ、国王もアリシアのこと気に入るよ!
魔法でライオンを癒して仲良くなった? 名前を「ライ」って名付けた? ライオンだから? 単純すぎるよ!
第二王子の部隊に配属されて、妖精を手に入れるために生きて帰ってこれないと言われている毒だらけの湖に飛びこんだ?
国外追放三人組、アリシア、ゲイル、エリックの祖父と会って教育してもらった?
その後、癖のある第一王子の元で仕えて、気に入られた……?
そりゃ、王権争いに巻き込まれるよ!
その後、デュークの母親の祖国メルビン国の暗殺者を手懐けたって何?
もはや、聞いている最中、「アリシア、ついに暗殺者を手懐けちゃったのか~~」のテンションで聞いていたけど、冷静に考えたら普通におかしいよ!
暗殺者の弟が斑点病で、その病気を治すために危ない森に入って崖の上に咲くマディを採取した?
僕がマディと同じ成分で治療薬作るよりも難しいよ! ……あ、でも、マディに複製魔法はかからなかったのか。
それから、その辺でデュークが登場したらしい。
……こう考えると、デューク、登場が遅すぎるよ。アリシア一人で物語の第四章ぐらいまで話進めちゃってるよ。
僕はデュークが出てきたところで大きく息を吐いた。
アリシアの話を聞くのには体力と気力が必要だ。休憩しないと……。