459 十二歳 ジル
コンコンッと扉をノックされる音で目が覚めた。
起きたての細い目で窓の方へと視線を向けると、陽光があまりにも眩しすぎて目を瞑ってしまう。
「ん~~~」
隣にいたはずのアリシアがいないことに気付く。
……そりゃ、もう起きてるか。こんなに日が昇っているんだもん。
あまりにもぐっすり眠り過ぎていた。けど、アリシアが隣で寝てくれた安心感があったからこそ、こんなにも良い睡眠をとれた。
貧困村にいた時はろくに眠れなかったし、村を出てからも基本的にずっと気を引き締めながら眠っていた。
アリシアがラヴァール国に行ってからは、ほとんどちゃんと睡眠をとっていなかった。
……やっぱり僕にはアリシアが必要なんだ。アリシアの存在が大きすぎるんじゃないかってぐらい大きい。
もう一度コンコンッと扉をノックする音が部屋に響く。
「ジル? いるか?」
…………カーティス?
想定外の声に僕は一瞬思考停止する。
どうしてここにカーティスがいるんだろう。ここ、ウィリアムズ家だよね?
僕は目を擦りながら扉の方へと近づく。
若干不審に思いながらも「いるよ」と扉を開けた。
「本当にアリちゃんの部屋にいた……」
カーティスは僕を見るなりそう言った。
あ、確かにここアリシアの部屋だ。僕がいるって他人に知られるのはまずかったかも……。
いや、そもそも僕がここにいることを知って来てるんだから別に良いのか?
貴族と庶民が問題になるんじゃなくて、男と女で問題になりそうだ。……けど、もしアリシアがこの場所を教えたのなら別に大したことではないのかもしれない。
……ダメだ、起きたてで上手く頭が回らない。
「なんでここにいるの? てか、何してるの?」
「アリちゃんがジルはここにいるって……。今客間でヘンリやアルバート、フィンたちと話してるんだけど、ジルも呼んで来よってなったんだ」
やっぱりアリシアだったんだ。
……アリシアってこういうところ鈍いよね。
言わなかったら、僕がここにいることなんて誰にもバレなかったのに……。
「俺もそう思う。こういうことに関しての危機管理能力には乏しいよな。他は完璧なのにな」
僕の心を読み取ったのか、カーティスがそう言った。
「こういうことは僕らがフォローしてあげるしかないんだよ」
「そうじゃないと、ウィリアムズ・アリシアがとんだ悪女って噂が出回るからな。デュークとの同衾の噂ですら大変なことになったのに」
「悪女だって絶対にアリシアに言っちゃだめだからね」
僕は強い口調でそう言った。アリシアの反応が目に見える。
「大丈夫。俺、女の子が傷つくことは言わな」
「逆だよ」
アリシアが喜んじゃうんだよ。
僕はカーティスの言葉に被せるようにしてそう言った。
アリシアにとっての最大の誉め言葉は「悪女」なんだから。