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……まぁ、まずそこからよね。
私はコホンッと小さく咳ばらいをして、色々と省きながら真実を話す。
「最初は到底会えるような状況じゃなかったのですが、私が役に立てる人材だと思っていただけたのでしょう。国王陛下に気に入ってもらい王宮に招かれました」
三人とも言葉が出ないのか、目を丸くして固まっている。
私をじっと見つめるその目は「何言ってるんだこいつ」と言っているように思えた。
確かに国外追放されて罪人としてラヴァール国に行ったのに、どういう経緯で王様に気に入られるんだって不思議だろう。
……これは話を続けた方がいいのかしら。
それとも誰かが口を開くのを待った方が良い?
私が迷っていると、カーティス様がゆっくりと言葉を発した。
「…………そうだった。この子、普通じゃないんだった」
「妹が変なことは知っていたが、他国でもそうだったのか」
「流石だね」
アルバートお兄様とフィン様がそう言った後に、ヘンリお兄様はフゥっと小さく息を吐いた。
俺はこれぐらいのことじゃ驚かない、という雰囲気を醸し出している。
……確かに、この中で一番一緒にいたのはヘンリお兄様だ。私のことをそれなりに把握しているはず。
「あの、……まだこの話、序盤の序ですらないのだけど」
「国王に気に入られるのが物語のはじまりの一文目!?」
「まぁ、それぐらいになりますね」
私はカーティス様の大きな声に冷静に答えた。
ここで会話してる方々は色んなハプニングがあってもいつも比較的冷静なのに、目を見開いて露骨に驚いている表情をしている。
なんて面白いのかしら!
いつも何考えているのか分からない人たちの感情を露わにさせてしまうなんて、私ってば成長したわね。
「オレ、モウオドロカナイ。カンジョウコロス」
ヘンリお兄様が無表情のまま死んだ目をしている。
「ダメです。人間でいてください」
「アリの話にいちいち驚いていたら、表情筋が筋肉痛になるんだよ」
「筋トレになっていいじゃないですか」
「でたよ、アリの筋トレ好き。……てか、表情筋鍛えても別に良いことないだろ」
「マッチョな男はモテますよ」
「マッチョにするとこ間違っているだろ」
「二人で仲良く漫才するのやめて」
私とヘンリお兄様の会話にカーティス様が割り込んでくる。
「……てか、ジルは?」
フィン様がジルの話を持ち出してくるのは意外だ。
意図が分からずに私は少し首を傾げながら答えた。
「疲れていて、まだ寝ていると思います」
「一緒にアリシアの話を聞かなくてもいいのかな。後で聞くと不機嫌になっちゃうかもよ、彼」
大人だわ……。
フィン様は乙女ゲームではショタ枠なのに、侮れない。……というか、彼は計算高いのよね。狡猾に生きている。
ジルも大人びているけど、やっぱり感情は子どもだ。きっと、まだこんな気遣いは出来ない。
まぁ、こう見えてフィン様も二十歳だもの。ジルも二十歳になればフィン様みたいになっているのかもしれない。
「呼んでこようか? 物語は始まったばかりだし」
「……カーティス様が?」
さっきから驚くことばかりだ。
皆、いつからそんなにジルと仲良くなったのだろう。
はみ出し者――五大貴族じゃないって意味では一番カーティス様がジルの気持ちを理解しているのかもしれない。