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今はヘンリお兄様を安心させることが一番重要よ。
ラヴァール国の良い所をあげていこう。私はラヴァール国での出来事を思い出していく。
「なんたって国外追放されたおじい様たちがいるじゃない」
「……おじい様が!?」
あら、言っていなかったかしら。
そうだわ! ラヴァール国での報告を何一つしていない。……これって先に国王様に報告した方がいいわよね。
……けど、きっとデューク様がしてくれているはず。
王様の耳に入れば、お父様の耳にも入るだろうし、大丈夫よね!
「そんな重要報告ここにしちゃっていいの?」
フィン様が目を丸くさせてそう言った。
ラヴァール国の内情や、どうやって私が過ごしてきたかを他言しないようには言われていない。
「ヘンリに呼び出されたのに、やっぱりアリちゃんの話が一番おもしろいよな」
「おい」
カーティス様の言葉にヘンリお兄様は低い声でつっこむ。
「もっと詳しく聞きたいよね!」
フィン様は目を輝かせる。
……さっきまで皆フィン様の恋について興味津々だったのに。絶対にフィン様の恋バナの方が面白い。
「えっと……」
私はどこから話せばいいのか分からず一瞬言葉に詰まった。
ラヴァール国の良い所を話さないと……。いかに魅力的で危険ではないかを伝えたら、ヘンリお兄様も私をラヴァール国にもう一度行かせていいと思うかもしれない。
いつもなら、そんな忠告も無視してまた国を抜け出してやるって思うのだけど、損得関係なく私をただ心配してくれている気持ちを無下には出来ない。
「ライオンと仲良く出来る国です」
生きるか死ぬかの闘技場に放り込まれて、ライオンと一対一で戦うことになった話は省いておこう。
「「「は?」」」
三人の声が見事に重なる。
一個ずつ説明していくときっと日が暮れてしまう。私は彼らのリアクションを無視して、話を進めていくことにした。
「魔法がない国なので、魔法で危ない目に遭うことはありません。その代わり全体的に剣術や武術はデュルキス国よりもラヴァール国の方が長けています。……ですが、ご安心を。私は剣術も武術も自信があります」
慢心は災いの元だけど……。多少の自信は持っていた方が良いわ。
「そりゃ、あの剣術ならアリちゃんなら余裕で生きていけるでしょ」
カーティス様はそう言って、苦笑する。アルバートお兄様も隣で「ああ」と小さく頷いている。
「王権制度は多少複雑ですが、兄弟仲は……良いと思い……たい?」
「なんで疑問形なんだよ」
ヘンリお兄様がすかさず言葉を挟む。
正直な話、ヴィクターは心の底からヴィアンのことを嫌いじゃない気がする。ただ理想と現実の乖離のせいでヴィクターもヴィクターなりに苦しんでいるのだろう。
「……てか、王族と対面したの?」
フィン様の素朴な疑問が部屋に響いた。