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「フィン様はどういう恋愛をしていらっしゃるのですか?」
私はフィン様を見つめながらにこやかにそう聞いた。
フィン様は動揺する様子もなく、ニコッと笑みを浮かべた。
……この何を考えているか分からない顔が怖いのよね。
カーティス様も裏の顔を隠しがちだけど、最も上手く裏の顔を隠せているのは、フィン様だと思う。
「教えて下さらないのですか?」
私がそう付け足すと、フィン様はティーカップを口に運びゆっくりとアップルティーを一口飲んだ。
その綺麗な所作に私はフィン様もちゃんと貴族なんだなと実感した。
……フィン様って取り乱したりすることあるのかしら。
私はぼんやりとそんなことを思っていた。
「どうだろうね」
フィン様の口から出てきた答えはそれだけだった。
もう!! 散々焦らして一体その答えは何よ。私の期待を返してほしいわ。
「誤魔化さないでください」
私はフィン様を軽く睨む。
カーティス様もアルバートお兄様達もフィン様も恋愛話に興味深々だ。
フィン様が昔から誰のことを好きだったのかはよく分からない。そもそも恋愛をしたことがあるのかも分からない。
私が会った中で一番不思議なお方かも……。
「ん~~~、誤魔化すっていうか、自分自身の気持ちをよく分かっていないんだよね」
「……どういうことですか?」
「恋をしているのかもしれないし、してないのかもしれない」
「え!?」
フィン様の隣でカーティス様が驚く。
フィン様からそんな答えが出て来るとは思わなかったのだろう。私もてっきり「したことないよ」と答えるのかと思っていた。
「あ、でも失恋したのかも」
この美少年を振る人間などこの世に存在するわけがない。
私はフィン様の言葉に思わず口を開いてしまった。
まって、フィン様が恋に破れるなんてことありえる? そもそもフィン様が好きな人って誰!?
私は頭の中がパニックになっていた。常に落ち着いた女性になろうと思っていたのに、今回ばかりは無理だ。
「……えっと、詳しく?」
カーティス様が口を開いた。
アルバートお兄様は私の隣で目をぱちくりさせている。
こういうところは兄妹似た者同士なのね。お互い驚きで何も言えなくて固まってしまっているもの。
「そんなに面白い話でもないよ?」
「「いや、めちゃくちゃ面白い」」
「いえ、めちゃくちゃ面白いです」
私とカーティス様とアルバートお兄様の声が見事に重なった。
誰かの恋愛話でここまで興味を抱いたのは初めてかもしれない。それぐらいフィン様の恋愛はレアだ。