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歴史に残る悪女になるぞ  作者: 大木戸 いずみ


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「……それで、どうして私まで客間にいるのかしら」

 私はフィン様とカーティス様に半ば強引に剣の稽古から客間へと連行された。

 もちろんまだ着替えていない。汗をかいた先ほどの稽古着のまま。

 この二人は私を連行しておいて、どうしてこんなに悪びれる様子がないのかしら。アルバートお兄様も彼らに言われるがままにこの場所にいるし。

 ヘンリお兄様がフィン様とカーティス様を呼んだってことは、私とアルバートお兄様はいない方が良いにきまっている。

 どうして自分の家でこんなよそよそしい気持ちにならなければいけないのよ。

 目の前のソファに腰を下ろして、どこか楽しそうな様子のフィン様とカーティス様を軽く睨む。

 私は隣に座っているアルバートお兄様に小さな声で話しかけた。

「お兄様、私、着替えたいです」

「……ああ、俺もだ」

「あの二人ってどうしてあんなにも……強気でいられるのでしょうか」

「俺もそれは疑問に思ってる」

「私だけ抜け出してもいいですか?」

「ダメだ。絶対に俺を置いていくな」

 男性同士の方が話しやすいでしょ。私がいない方が話せる話なんて山ほどあるだろうし……。

 とりあえず、折角家まで足を運んでくださったのだから、何か会話した方がいいわよね。

 私は何か話題を出そうと思い、口を開いた。

「お二人は恋はしてらっしゃらないのですか?」

 …………何故!!

 アリシア! どうしてそんな質問してしまうのよ!

 なんて馬鹿なのかしら、私は……。パッと頭に思いつくのが恋愛の話しか出てこなかった。

 どの地域でもどの時代も「恋バナ」というのは盛り上がる。

 ……けど、今ここでする話題でなかったのは確かだ。私の話題選択ミス。

 私がまさかそんな質問をすると思っていなかったのか、フィン様もカーティス様も目を丸くして私を見つめている。

 隣のアルバートお兄様からも驚きの視線を感じる。

 分かっているわよ。恋愛偏差値ゼロに近い私が恋の話を持ち出すなんて、信じられないものね。

 なんだか、自分で言って悲しくなってきた。もう恋の話はやめておこう。

「……違う話題にしましょう。最近面白い出来事はありましたか?」

 固まった空気をほぐそうと私は軽く微笑みながらそう言った。

「今」

 私はフィン様の回答に反射的に「え?」と声を漏らす。

「今のアリシア、めっちゃ面白いよ」

「……私はちっとも面白くありません。今の回答は却下で」

 私は目を細めながらフィン様にそう言った。

「え、なんで!」

「カーティス様は?」

 私はフィン様を無視して、カーティス様の方へと視線を向けた。

 彼も「今」とフィン様と同じ回答をしたいであろう雰囲気を醸し出していたが、私が笑顔でそれを阻止した。

「えっと……、面白いことか……」

「さっきのアリシアの話題に戻ろう」

 カーティス様が言葉に詰まっていると、横からアルバートお兄様が入ってきた。

 折角、私が話題変更したのに水の泡じゃない!

「恋愛話をしたいのですか……?」

 私は少し疑いながらアルバートお兄様の方を見る。彼はニヤッと笑みを浮かべた。

「フィンとカーティスの恋愛はどう考えても面白い話でしかないだろう」

「……確かに」

 私はアルバートお兄様の言葉に大きく頷いた。

 なんだか恥ずかしくなって話題を変えたけれど、単純に彼らがどんな恋愛をしているのか気になるわ。 

 ここはもう乙女ゲームのシナリオ通りではない世界だもの。

 リズさんに熱中していない彼らがどんな恋愛をしているのかとても興味深い。

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