450
アルバートお兄様とちゃんと会話をするのは久しぶりだった。
昔のようにお兄様っこじゃないし、お互いに雰囲気も変わったけれど、それでも兄妹だということは変わらない。
今までヘンリお兄様しかまともに話してこなかった。
私はギュッと剣を握りしめて「お兄様」と彼の瞳を真っ直ぐ見つめた。
「手合わせお願い致します」
私の言葉にアルバートお兄様は一瞬固まったが、すぐにフッと顔を綻ばせた。
「ああ、もちろんだ」
私たちは時間を忘れてひたすら剣を交えた。
何本かお兄様から取れたが、思っていたよりも強い。私はまだ一本も取られていないけど。
……アルバートお兄様ってこんなに強かったかしら?
男性だということを考慮しても、かなり強い。昔、私が誘拐された時に戦うことを放棄した人だとは思えない。
あの時は暴力は暴力を生むって言って、剣を抜こうとすらしなかったのに……。
人は成長する……、というより変わるものなのね。
あ、もしかしてリズさんの魔法が解けたから? ……どれだけ強いのよ、魅惑の魔法。
聖女の力がそこまでチート級のものだとは思わなかった。
私が戦いに集中していないことを察したのか、その隙を狙ってお兄様が一気に攻撃してきた。
間一髪で私は躱していく。
……危うく一本取られるところだった。油断大敵だ。
小さな油断が命取りになる。私はアルバートお兄様の動きにだけ集中した。
きっと、彼も悔しいはず。だって、今のところ五つも下の妹に負けているのだから。
剣がぶつかり合う音が響く。気付けば、もう朝日は昇っていた。
額から汗が滴るのが分かる。お兄様は私が来るより前からずっと稽古をしていた。そう考えると、彼の体力もバケモノ級だ。
体をグッと思い切り逸らしてお兄様の攻撃を避ける。
この攻撃を避けられると思っていなかったのか、お兄様は目を見開いた。その瞬間私は彼の横っ腹に剣を押し当てた。
「また一本。私の勝ちね」
息を切らしながら見つめ合う。私はゆっくりと彼から剣を離した。
お互いに呼吸を整える。アルバートお兄様は声を上げて嬉しそうに笑った。
「アリシア、君はこんなに強かったのか」
……あら、思っていた反応と違う。
もっとしみじみと「強くなったなぁ、アリ」って言われるのかと思っていた。
こんな風に豪快に笑ったアルバートお兄様を初めて見たかもしれない。
昔からアルバートお兄様は私のことをいつも心配してくれていた。私が剣術を習いたいって言った時もハードなメニューを言い渡されたけど、それでもちゃんと面倒を見てくれたし……。
良いお兄様よね。
「え~~、アルバート負けてるじゃん」
突然可愛らしい声が耳に響いた。