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「……ああ、確かに言われてみれば『いいひと』には向いていないかもしれない」
お兄様ってば、私のことちゃんと理解しているじゃない!
そうよ、良い子ちゃんになんて私はなれないの。そこはちゃんと押さえていてもらわなくちゃ。
一呼吸置いた後、アルバートお兄様は「だが」と付け足した。
「厳しさの中にある優しさに気付かない者が多かっただけだ」
なによ、それ……。
確かに私は現実主義だし、国王様にリズさんの監視役を任された。
けど、それは別に優しさなんかじゃないわ。私が私の為に行動したことだもの。
今までの言動だって全てそうよ。私が悪女としてのポイントを稼ぐため。
…………というか、今になって思ったのだけれど、リズさんの監視役ってまだ続いているのかしら?
勝手に投げ出して国外追放されちゃったけれど……。
でも、今のリズさんに監視役は要らないと思う。もう私がいなくても、彼女は大丈夫な気がする。
「私は自分勝手な女です」
勘違いされては困るわ。
厳しさの中にあるのはあくまで傲慢な心だけ。今までだって、これからもきっとそう。
「自分勝手な悪女は貧困村の住人にあそこまで愛されないよ」
「……ですが、私は貧困村を救ったわけではありません」
これだけはハッキリしておかなければならない。
私は正義のヒーローなんかじゃない。
アルバートお兄様から目を逸らさず話を続けた。
「貧困村を救ったのはウィルおじさんやレベッカたちです。そして何よりもあの村を解放したデューク様が英雄です。私はただあの村の人たちに『生きる』というチャンスを与えただけ。彼らが自ら村の改革を望まなければ意味がない。機会を与えて、後は彼らに任せただけです」
聖女なら、あの村をより良くしようと手を貸しているはず。
ただ、私はそんなことを一切しなかった。ただ、村の情報を常に聞いていただけだ。
利用できるものは全て利用しようと思っていた。その考えは今でも変わらない。
弱き者は強き者に食われるのだ。
「…………それでも、村人はアリシアに感謝しているよ」
「どうしてですか?」
私は思わず顔を顰めてしまった。
「アリシアは一番大事な『きっかけ』を与えたからね」
「きっかけ……?」
「あの村を変えさせた最も大きな要因はアリだ。変化を起こすにはきっかけが最も重要だ。それが全てだと言っても過言ではない。きっかけがなければ何も始まらない。アリシアがきっかけを与えなければ、何も変化はなかっただろう。ウィル様やレベッカ、ネイトたち……、そしてデュークが動くこともなかった」
私は黙ってアルバートお兄様の話を聞いた。
何も言い返せない。確かに彼の言うとおりだ。けど、私のしたことなど「貧困村解放」という事象から考えれば大したことない。それもまた事実だ。
「きっと歴史に名を残すのはデューク様ですね」
私がぼんやりとそう呟くと、お兄様は私に聞こえないぐらいの声で言葉を発した。
「……それはどうかな」