表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
歴史に残る悪女になるぞ  作者: 大木戸 いずみ
448/686

448

 私たちは家に戻り、たっぷりと睡眠をとった。

 五大貴族の令嬢としてはタブーなのかもしれないけれど、私の大きなベッドで手を繋ぎながら眠った。

 久しぶりにこんなにもゆっくりと眠ったかもしれない。蓄積していた全ての疲労が取れたような気がする。

 国外追放される前も、された後も、帰って来た後も、ずっとせわしない日々が続いていた。

 ゆっくりと瞼を開けて、朝になっていることを確認する。

 ……こんなにも死んだように眠ったのはいつぶりかしら。

 私は隣でまだ眠っているジルへと視線を向ける。

 彼がこんなにも気を許して寝ている姿を見るのも珍しい。

 ずっと気を張っていたのだろう。斑点病の治療薬を作るなんて常人の技じゃないものね。

 ……そこからのウィルおじさんの死。とてもじゃないけれど、まともに睡眠をとっているとは思えない。

 私はそっとジルと繋いでいた手を離して、ベッドから出た。

 窓の方へと足を進め、外の様子を眺める。まだ外は薄暗く、早朝の涼しさを感じる。

 …………あれはアルバートお兄様?

 庭でアルバートお兄様が剣の稽古をしていた。

 昔の自分を見ているような気持ちになった。というか、アルバートお兄様はこんな朝早くから剣の稽古なんてしないはず。

 もしかして、私が「尊厳を取り戻して」なんて言ったからかしら。

 お兄様の真剣な表情を見ていると、自分も何かしなければ、という気持ちになる。

 デュルキス国でしなければならないこともあるけれど、私はラヴァール国にまた行かなければならない。

 クシャナとの約束も守らないといけないし、なによりリオの斑点病が無事に治ったのかも気になるもの。

 私はジルを残して、稽古着に着替えて、剣を取り、部屋を出た。

 とりあえず、考えをまとめる時は素振り! 

 ごちゃごちゃ考えていても仕方がない。考えている暇があるなら、鍛えた方が良いわ!

 駆け足で庭に出て、「お兄様!」と声を掛ける。

 すぐにアルバートお兄様は私に気付いて、手を止めた。

「アリ」

 少し息を切らしながら、私の名前を呼ぶ。

 額には汗が滲んでおり、随分と稽古をしていたことが分かる。

 お兄様って真面目よね……。兄弟の中で一番真面目だし、一番優しい気がする。ザ・長男。

「おはようございます」

「おはよう。ゆっくり眠れたかい?」

「ええ、とても」 

「それは良かった。アリだけでなく、ジルにも無理をさせてしまっていたのかもしれない」

 眉をひそめながらそう言ったお兄様に私は少しだけ間を置いてから答えた。

「そこは気になさらなくて大丈夫だと思います。ジルは自己満足で動いていただけだし……」

「相変わらず厳しいな」

 ハハッと声を出してアルバートお兄様は笑った。

 少し会わないうちに随分と大人になった気がする。お兄様だけじゃなくて、皆、大人になったのよね。

「自分勝手な行動が後に世の為になるだけです。……だから、ジルは悪役向きじゃない」

 私は最後に一言ボソッと呟いた。

 きっと、アルバートお兄様に聞こえていたのだろう。彼は目を丸くして私を見つめた。

「アリシアは悪役向きなのか?」

「むしろ、今まで私を見ていて良い人だと思った瞬間がありましたか?」

 私は皮肉を言うような表情を浮かべた。

 幼い頃から悪女らしい表情をしてきた私にとって、いつどんな瞬間でも悪い顔を作ることができる。

 プロフィールに書いておきましょ。特技はいつ何時でも悪い表情を作ることができるって。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
聖女になったことを知らないアリシア。 あとアリシア絶対悪役向きじゃない。
[良い点] なお、周りは聖女だと思っている模様。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ