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お父様は一呼吸置いた後に、私の方を真っすぐ見つめて口を開いた。
「キャザー・リズの魅惑の魔法が解けたことはもう聞いたか?」
「はい、軽く」
ジルから少しだけ聞いた。どうやって解けたかは聞いていないけど……。
でも、今は過程はさほど重要ではない。結果だけを聞きたい。
「貧困村がなくなった。軍事用に開拓するそうだ」
……この情報は流石に寝耳に水だわ。
確かに、レベッカとネイトがウィルおじさんのお墓の場所にいることってよくよく考えれば不思議な光景よね。
貧困村から普通の住民は出ることができない。何らかのアクシデントが起きない限り不可能だ。
それに、あの場にいたってことは、不法で貧困村から出てきたわけではないことは理解出来た。
私が「そうですか」と相槌を打つと、お父様の方が驚いていた。
「知っていたのか?」
「いえ、貧困村がなくなったことに関してはこれでも結構おどろいています」
「……そうか」
驚くような情報を与えても、取り乱さない私を不思議に思っているのだろう。
これまでに驚くようなことが山ほど起こりすぎて、意外とビックリ情報に慣れてしまったのかもしれない。
……まぁ、後は、ウィルおじさんの死が意外とまだ堪えている。
大きな感情の揺れは昨日だけでいい。暫くは負の感情など持ちたくない。
「村人たちは貧困村を潰すことに賛成したのですか?」
「多数決ではそうなったそうだ」
「ネイトとレベッカ、それに……ウィルおじさんという素晴らしい先導者がいたものね」
「ああ、そうだな。そのおかげで、大きな暴動が起こることなく貧困村を解放することができた」
「……それでも、あそこはあくまでも治安が良いと言える場所ではありません。警戒を怠らないように」
私は少し厳しい口調でそう言った。
お父様相手だけど、これだけはちゃんとしておかなければならない。貧困村を解放して、この国の平民の人たちの生活が脅かされるのは違う。
いくらネイトやレベッカが指導していると言っても、彼らの行動は常に監視しておかなければならない。
「他に何かありましたか?」
「ジルが斑点病の治療薬を作った」
「ええ、それは本人から聞きました。……とんでもない偉業を成し遂げましたね」
「あんな昔から、アリシアはジルのことを見込んでいたのだな」
「……まさかここまでのことをするとは想像もしていませんでしたわ。ジルは私の予想を遥かに超えて成長しました。もう彼には私は必要ないでしょう」
ジルはこの世界でも一人でやっていける。
この実力主義の中で充分な地位を確立できる能力をもうすでに持っている。私の後ろ盾など必要ないだろう。
「……だが、まだ彼にはアリシアが必要だよ」
お父様は柔らかな口調でそう言った。