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部屋を出て、お父様の書斎へと向かった。
廊下を歩くと、侍女や執事たちが私の方を振り返り見惚れていた。すぐにハッとして「おかえりなさいませ」と頭を下げる。
私が帰って来たことに驚いているのか、それとも……。
「みな、お嬢様の美しさに驚いていますね」
ロゼッタが私の後ろでそう囁いた。
気品を失わないように、私は表情を作り背筋を伸ばし、歩き方にも気を付ける。
令嬢としての品格を失えば悪女としては失格だもの。
書斎の前につき、私は軽くノックをした。
「お父様、アリシアです」
「入りなさい」
中から聞こえたお父様の声とともに私は扉を開けた。
昨日も少しだけあったけれど、こうやってちゃんと対面で話すのは久しぶりだ。少し緊張する。
「お久しぶりです」
私は部屋に入るなり、軽くお辞儀をした。中にはお父様だけでなく、お兄様たちもいた。
……なんだか不思議な光景だわ。
私がデュルキス国を出て行く前は、ヘンリお兄様は私サイドだったけれど、アルバートお兄様とアランお兄様はリズさんサイドだったもの。
私がいない間にそんなにこの国の様子は変化したの……?
「おかえり」
父からの言葉はそれだけだった。「無事に帰って来て良かった」などの言葉や強い抱擁などはなかった。
ただ、その微かに震えた声と少しだけ涙目になっている父を見れば彼の深い愛情は理解出来た。
その「おかえり」の一言に全てが詰まっていた。
私は「ただいま、お父様」と満面の笑みで微笑んだ。
「本当に綺麗になったな、アリ」
ヘンリお兄様の言葉に「ラヴァール国で少しは成長したので」と答える。
自分で自分の変化はあまり分からない。
けれど、少なくともラヴァール国で多くの出会いがあり、困難を乗り越えることが出来た。その点では前の私よりかは成長できたと思う。
「そう言えば、アランからも何か言いたいことがあるようだ」
父の言葉にアランお兄様は少しだけ姿勢を正した。彼もまた昨日のアルバートお兄様みたいに深く頭を下げた。
……いつからこんなに頭を下げられる立場になってしまったのかしら。
私はどう反応するか困りながら、彼のことを見つめた。
「俺はアリの味方でなければならない立場だった。国外追放という」
「ちょっと待ってください」
私はアランお兄様の話を遮った。
本来なら、最後まで話を聞くべきなのだろうけど、これ以上私に家族からの謝罪は不要だった。
それに、私も望んで国外追放になったのよ!? どうして、謝られてるの?
アランお兄様は不思議そうに顔を上げた。私はこの状況になることを知っていたであろうヘンリお兄様を軽く睨んだ。
私がこんな風に謝罪されることが嫌いって知っているはずなのに……。
ヘンリお兄様はばつの悪い顔をしている。
「謝罪など必要ありません。ただ、私がいなかった間、デュルキス国がどのように変わったのかを教えてください」
私は強い口調でお父様に視線を移した。