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この部屋のドレスを着るなんていつぶりかしら……。
私はクローゼットを勢いよく開けた。「え」と思わず驚きの声を発してしまう。
私の知っているドレスは一つもなかった。全部新しいのに替わってる? いつの間に!?
確かに前のドレスはサイズが小さくて入るか不安だったけど、まさかクローゼットの中身がごっそりと変わっているなんて聞いていない。
目を見開きながら、多くのドレスを見つめる。
全部私好みだわ。なんて素敵なの!
派手過ぎない素敵なドレス。シンプルだけど、素材が最高に良い。高級ドレスだということは、触らずとも分かる。
「一体誰が……」
「奥様です」
固まってドレスを見つめている私にロゼッタが答えた。
「お母様?」
ここでお母様が登場してくるとは思わなかった。
だって彼女、私にほとんど興味ないもの。だから、乙女ゲームの世界のアリシアはあんなにも我儘に育ったんじゃないかしら。
お母様はとても強くて素敵な女性であることは確かだし、私のことを愛していないわけではない。
お喋り好きな女性たちとは違い、クールなイメージが強いけれど、愛に溢れた女性って感じではない。
リズさんとも私とも違う雰囲気の人だ。ただ男女ともに尊敬されている。
どちらかというと、めちゃくちゃ仕事が出来るキャリアウーマンみたいな人。幼い頃からあまりお母様と話したことはないけれど、信用できる。
「流石お母様、良いセンスしているわ」
「奥様もまさか突然お嬢様がいなくなるとは想像していなかったのでしょう。お嬢様が国外追放されたと知った日は何もお食事をとられていませんでした」
「そうだったの……」
娘に興味がそこまでないといえども私のことは愛してくれているものね。
お母様が私に口出ししてこないのは、彼女は私のすることを信用しているからだろう。小屋で二年間閉じこもって魔法の鍛錬をしていた時もそうだった。
私の行動を否定はしない、ただやるからにはやりきりなさい精神だ。
「どれもお嬢様にお似合いだと思います」
ロゼッタは目を輝かせながらそう言った。
私はその中から一番最初に視界に入った黒いベルベッドの洗練されたドレスを選んだ。
オフショルダーが色気を感じさせる。肩ぐらいまで伸びた髪を少しだけ外に撥ねさせて、櫛で髪を梳く。
伸びてきた前髪は後ろ髪と共に耳に掛ける。真っ黒い艶のある髪が久々に良い働きをしてくれる。
ゴージャス過ぎないが令嬢であることが分かるアクセサリーを首元と耳に飾る。
ロゼッタが丁寧にメイクをしてくれる。高貴で強そうなメイクアップ。
最後に赤色の口紅をそっと唇に塗った。
……完璧だわ!!
鏡に映る自分を見てみる。自分で思わず見惚れそうになってしまった。
それぐらいアリシアは美しかった。