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ジルは暫くすると私から顔をはなして、じっと見上げた。
その灰色の聡明な瞳に圧倒された。……この子、こんな表情をする子だったかしら。
「僕ね、斑点病の治療薬を作ったんだ。マディと同じ成分を作り出したんだ」
その言葉に思わず固まってしまった。
マディを自ら作り出した……? 嘘でしょ。信じられない。
私は思わず耳を疑ってしまう。そんなことをできる人がいるなんて……。
作り出すことが出来れば、斑点病から救い出せる人が一気に増える。彼のおかげでどれほどの人たちが助かるのかしら。
私は自分の魔法を使い命をかけてマディを採取したけれど、彼は自分の知識と信念だけで一から治療薬を生み出したのだ。
……ああ、天才って彼みたいな子のことをいうのだろう。ジルの才能を羨ましく思う。
「ジルはヒーローね」
私の言葉にジルはきょとんとした表情を浮かべて、ハハッと声を出して笑った。
「まさかアリシアに言われるなんて」
「あら、私に言われるからこそ価値があるんでしょ?」
だって、私は悪女なんだもの!
国外追放されたっていう肩書まであるのよ。立派な悪者だわ。
……こんなことを考えられているってことは、少しずつ私は私を取り戻せて来ているのだろう。
いつまでもうじうじしていられない。ウィルおじさんに恥じないように生きるためにも前に進まなければならない。
ジルは少しはにかみながら「たしかにね」と呟いた。
「アリアリ!」
「アリシア、久しぶりだな」
メルとヘンリお兄様が私の元へと駆け寄って来る。その後からまだ目が腫れているレベッカとネイトがやって来る。
キャロルも「アリシア様」と少し涙目になりながら近づいて来た。
少し会わない間に皆大人になった気がする。……それにリズさんサイドの方たちの様子も前までとは違う。
私を見る目に嫌悪感がない。……どうしちゃったの!?
「ねぇ、何があったの?」
私はジルの方へと視線を向けて、小さく尋ねた。
ジルは答えづらそうな表情を浮かべた。その表情に私にとって嫌なことがあったのだと悟った。
「アリシアにとってあんまり嬉しくないことだよ」
「……やっぱり」
雰囲気からして、魅惑の魔法が解けてしまったのかしら?
それでも、リズさん信者はリズさんの味方であるかもしれないけれど……。そうなると、この中で一番変わったのはリズさんということになる。
私はリズさんの方へと視線を移した。
エメラルドグリーンの澄んだ瞳と目が合う。以前の彼女とは違う、どこか覚悟を決めた目だった。
もしかして、いい子ちゃんやめちゃった? ……吹っ切れた女の顔だもの。
「少しはマシな顔つきになったんじゃないかしら」
ニコッと余裕のある笑みをリズさんに向けた。
こんにちは! 大木戸いずみです~~。
いつも読んでいただきありがとうございます!
誕生日抹消一揆をおこしたいなって思たぐらいに年を取りたくなかったのですが、本日、無事に年を取りました。
これからもよろしくお願いいたします。