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デューク様に抱えられながら空を見上げ、眩しい太陽に目を細める。
……不死鳥になるなんてウィルおじさんらしいわね。
ずっと空から見守っていて下さい。私は私の夢を最後まで諦めずに追い続けます。貴方が支えてくれた私の夢を叶えてみせる。
私はデューク様に「もう、大丈夫です」と伝えた。
弱々しい声だと自分で実感したが、それでも声が出せただけ良かった。
大丈夫、という言葉は嘘だけど、それでも口に出さずにはいられなかった。大丈夫だと声に出して、自分の脳をそう洗脳することでこれ以上取り乱さずにいられる。
私が私であるためには、心をもっと強くしなければならない。
デューク様は私を心配そうに見つめながらも、ゆっくりとその場に下ろす。
棺桶に向かって、今までの想いを全て込めて丁寧にお辞儀をした。
「貴方が育ててくれた私が形見です」
ウィルおじさんから受け継いだ唯一のものが今の私だ。
己の信念を曲げない気高い女であり続けよう。
私は暫くお辞儀をした後、頭を上げてクルッと皆の方を振り向いた。懐かしい顔が揃っている。
皆どこか成長したように思えた。特にリズさんが一皮むけたような気がした。
いつの間にか涙が止まっていることに気付く。心がまだ張り裂けそうだし、立っているのもやっとだけど、それでも私は強くありたい。
ウィルおじさんに恥じないように、何よりも自分の好きな自分でいられるように……。そのためになら私はどんなお面だって被ってみせる。
皆、目を見開いたまま固まっている。
両目があることに驚いているのか、それとも私がデュルキス国に戻って来たことに驚いているのか、どっちか分からない。
私は「ただいま」と顔を綻ばせた。
大切な人が亡くなった今でも笑みを浮かべる余裕があるのだと、悪女として生きていく覚悟を決めた女の笑みだ。
国外追放され、王族の葬儀で無礼を働いた私にどんな罰が下されるのか分からない。
けど、少しでも皆の心に爪跡を残せるのなら悪くない。
「……っアリシア!」
ジルは泣きながら私に抱きついた。
「戻ってきてくれた。ありがとう、ありがとう。アリシアが戻ってきてくれて、……本当に良かった」
ぎゅうっと力強く抱きしめるジルに私はそっと彼の頭を撫でた。
ジルは昔から聞き分けのいい大人っぽい少年だった。泣いてもいいような状況に何度も直面しているのに、彼がこんな風に泣いているのをみたことがなかった。
「じっちゃんが死んで……、アリシアまでいなくなったらどうしよって……。僕……」
ウィルおじさんの死は私一人だけが辛いわけじゃない。
ジルの方が堪えているだろう。それなのに、私の方が泣きじゃくっていたなんて……。
「戻って来てくれて、ありがとう。……おかえりなさい」
ああ、私をこんなにも待っていてくれた人がいたのね。
たった一言「おかえりなさい」の言葉に私は少し救われた。胸が熱くなり、「ありがとう」と呟いた。
帰る場所があるのはとても幸せなことなのね。