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歴史に残る悪女になるぞ  作者: 大木戸 いずみ
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 ……王家の者って丘に墓をたてるの?

 馬は丘をどんどん上っていく。人が思ったよりも多く集まっていた。後ろ姿で大体誰か分かるが、まさかリズさんたちもそこにいるとは思いもしなかった。

 私がいない間に何かあったのだろう。それにしても、まさかこんな帰り方になるなんて……。

 ここにいるということを知られたくない。ただウィルおじさんを見て去りたい、と思ってしまった。

 それに、もしここに私が現れたということを知られたらこの葬儀の主人公は私になってしまう。これはウィルおじさんの死を悼むものだもの。

 私が堂々と登場して良い場所じゃない。それに、国外追放された身の女だし……。

「……どうして気付かないの」

 かなり存在感のある馬なのに、誰もが私たちの方を振り向かない。

「存在を消しておいた」

「本当に抜かりないわね」

 デューク様の言葉にもはや軽い笑みを浮かべた。

 どこまでも隙がない。彼はいつも私の先を歩いている。いつか、彼をアッと言わすことができるかしら。

 皆が並んでいる前に棺が見えた。それと同時に馬が止まる。

 国王様やお父様たちもいる。ジルは瞳から大粒の涙をとめどなく流していた。その表情に私の胸が痛くなった。

 立っているのもやっとだと思う。それなのに、じっと真っ直ぐな目で棺を見つめていた。

 レベッカたちも涙を流している。貧困村の人々から、王族の者、貴族の者から、そしてリズさん――平民の者から慕われていた稀有な存在を失ったのだと実感する。

 私は棺を直視できなかった。

 ……どうしよう。ここまで来たのに、怖くて見れない。

 どこか怯えている私の様子を察したのかデューク様は「どうする?」と声を掛ける。

「…………もちろん、会いに行きます」

 少しだけ声が震えた気がした。

 必死に気を保っているけれど、少し崩れてしまえば私は平静でいられなくなってしまうかもしれない。それぐらい私の精神状態は不安定だ。

 私はデューク様と一緒に馬から降りて、棺桶の方へと近づく。デューク様の魔法のおかげで誰一人私たちに気付くことはない。 

 折角久しぶりに皆に会えたのに、成長した皆を見たいはずなのに……、こんな形で再会したくなかった。

 少し離れたところで様子を見つめていた。この場所からだと棺に入っているウィルおじさんの顔は見えない。

「ここでいいのか?」

 少しだけ返答に困りながら、私は「ええ」と小さく頷いた。

 良いわけない。ちゃんとお別れを言わないと。

 心の中では分かっている。それなのに、こんな時に勇気が出ないなんて私って本当に臆病ね。私より年下のジルでさえ現実に目を向けている。 

 どうして足が動かないの……。

 私がじっと棺を見つめていると、目が赤くなっている国王様が静かに口を開いた。

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― 新着の感想 ―
[一言] まずはウィルおじさんとのお別れですね。 間に合って、良かったです。 存在を消すとは、デューク様の気遣いさすがです。 悲しいお別れですが、アリシアの帰国は、この国にとって新たな希望の光となりま…
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