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あっという間に日が暮れた。
私たちは特に会話することなく馬を走らせた。一刻も早くデュルキス国へ戻ることに必死になっていた。
「国境を越えるぞ」
デューク様が静かにそう言った。
私は気を引き締めた。ラヴァール国から早馬で出て行くなんて、絶対に引き留められる。
そこで時間を取られるのは勘弁してほしい。
検問所のようなものが見えてきた。私はじっと目を凝らす。
一人だけ? ……いや、二人かしら?
どんどん検問所が近づいて来るのに、馬の速度は全く落ちない。むしろ、どんどん速くなっているような気がする。
デューク様? 馬の止め方分かってる?
このままだとただ検問所を通り過ぎて、警報がなるかも……。追っかけてこられたら面倒くさい。
二人だと殴って気絶させることぐらいは朝飯前だわ。何かあったら私の腕に任せて! ……って思っているのだけど、本当に馬が止まる様子は一切ない。
「あの」と声を掛けた瞬間、気付けば私たちは検問所を通り過ぎていた。
……え!?
まって、こんなにあっさり越えられるものなの? セキュリティ脆弱すぎない?
いくら馬のスピードが速いからって、目の前を通り過ぎたら分かるでしょ?
「眠らせておいた」
いつの間に……。
確かに、魔法で眠らせるのが一番いい案よね。武力行使で気絶させようとしていた私って……。
魔法って本当に便利よね……。そう考えると、私の強さってズルなのよね。いざって時に魔法に頼ることができるのだもの。
そんなことを考えながら私は暗い真っ直ぐな道を眺めていた。
……デュルキス国に戻って来たんだわ。
なんだかとても変な感覚だ。懐かしさも感じるけれど、何か新しさも感じる。
きっと、私が変わったようにデュルキス国にも色々な変化があったのだろう。前のデュルキス国ではないことは確かだった。
「私が出てから随分と変わったのね」
「ああ」
私の呟きにデューク様は短く答えた。
デューク様はデュルキス国の様子をほとんど教えてくれなかった。教えてくれたのは、ウィルおじさんの容態ぐらい。
私が自分の目で見て、新しいデュルキス国を知るほうが良いと思ったのだろう。百聞は一見に如かず。
「それにしても、私こんなに簡単に戻ってきても良かったのかしら……」
デュルキス国での私の立ち位置がどういうものか分からなかった。
私は国外追放された悪女ということで大丈夫よね? それなら、相当まずくない!?
歓迎してほしいなんて思っていないけれど、国外追放された罪人がそんな簡単に戻ってこられるなんて、これから国外追放級の罪が増えるかもしれない。
だって国外追放があるってことは罪を増やさないための抑止力にもなっているってことだもの……。
「俺がついているから大丈夫だ」
そうだったわ。私にはデューク様という最強の味方がいる。
「……確かに王子様が付いていたら安心ね」
「ああ、姫を守るのは俺の仕事だからな」
デューク様はそう言って、私の頭に軽く口づけをした。
あまりにもスムーズな動きに一体何が起こっているのか把握できなかった。
…………あ、甘すぎない?
数秒してから、自分の身に何が起こったのか理解した。その瞬間、体が一気に熱くなる。
私がデュルキス国へと帰って来たことをデューク様が誰よりも先に喜んでいるのだろう。