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私のその様子に驚いたのか、その場の空気が変わるのが分かった。
ヴィクターやレオンも私を見て驚いている。
「どこまでプライドが高いんだ……」
「そうですね」
「気色悪い女だ。少しぐらい弱み見せてもいいだろ」
「…………出来ないんですよ」
「あ? どういうことだ?」
「……弱みを見せたら自分が保てなくなるのを自覚しているんだと思います。だから、主はきっとこれから先弱みを見せることなんてできないんでしょうね……」
「自ら生きにくい世界に飛び込んで行ってどうするんだよ」
「優しさを与えられてしまうと、ダメになってしまう……。僅かな優しさにでもすがりたくなる状況の時だからこそ、撥ね除けるんでしょうね。…………だから、今の主は相当苦しいはず」
「気色悪い。小娘はもっと周りに甘えておけばいいんだよ」
「ヴィクター様も王子という立場なら分かるのでは?」
「…………てか、なんで俺よりもガキと関わって日の浅いお前の方が詳しいんだよ」
「そこは僕と似ているので。弱みを見せないプライドは自分を守るために存在するんです」
「お前も面倒くさい奴だな」
彼らが何か会話をしていたようだったが、デューク様のその表情が気になり何を話しているのか把握出来なかった。
デューク様を頼りたくないわけじゃない。むしろ頼りたいと思う瞬間は何度もあった。
なんなら、今も頼っているわ。だって、デュルキス国の第一王子が私の為にラヴァール国まで来たのよ?
それに私なんてデュルキス国では罪人扱いだもの。
崖から落ちた時もデューク様がいなければ私は死んでいた。彼のおかげで今私はここにいる。
「ああ、知ってるよ」
デューク様は少し間を置いた後、どこか寂し気に笑みを浮かべて私の頭を優しくポンポンと叩いた。
……それだけで涙が出そうだった。私はなんて大きな愛で守られているのかしら。
「戻れ」
突然言い放たれたヴィクターの言葉に固まってしまった。彼の方へと視線を移す。
私は瞬時に彼の言葉を理解出来ずに、ただじっとヴィクターを見つめた。彼は私を睨むようにして見返していた。
「お前は元の場所へ戻れ」
「どういうことですか? 私、まだここでやることが……」
「そもそもこの国の人間じゃねえだろ。帰れ」
少し前まで私をこの国に留まらせようとしていたのに……。
急にどういう心の変化なのよ。情緒不安定なんじゃない? ……って、今の私も情緒不安定か。
「……いいから戻れ。今お前がここにいても迷惑なだけだ」
声を荒げることなく、ヴィクターは顔を顰めながらそう呟いた。
……迷惑ですって?
私がヴィクターの為に命を懸けてキイを手に入れたことを忘れたの?
「不器用な奴ばっかりだな」
私たちの様子を見ていたクシャナが呆れた様子で苦笑した。