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デューク様の澄んだ青い瞳に、どこか疲れた表情をしている私が映っていた。
じっと見つめられると、思わず目を逸らしたくなる。その真っ直ぐな瞳に上手く応えられない。
いきなり両目でこの美形を直視するのはしんどいわ……。
目を無理やりにでも悪くさせて、ずっと視界をぼやけさせておこうかしら。むしろ、その方が目に良いかもしれない。
そんな馬鹿なことを考えているはずなのに、心にぽっかりと空いた虚しさを消し去ることは出来なかった。
私の中で何かが欠けてしまったような感覚がずっとある。
「伯父は……」
「……ええ。…………ご冥福をお祈りいたします」
私はデューク様から少し離れて、頭をゆっくりと下げた。
ウィルおじさんと私は何の血縁関係もない。彼は生まれてから死ぬまで王族であり、この国を担うために生まれてきた重要人物だ。私なんかと格が違う。
ウィルおじさんと親族であるデューク様に私は頭を下げることしか出来なかった。
私は彼に泣きつくことさえ許されない立場だと思っている。きっと、それを言うとデューク様は否定するのだろう。
それでも、私は自分のエゴでウィルおじさんにもう一度生きる希望を与えてしまった。そして、彼は私の為に人生を捧げて下さったのだ。
王族の方を……、デューク様の伯父上を私の夢の為に利用してしまったのは事実だもの。
デューク様がどんな表情をしているのか分からない。
ただ怒っていないことは分かる。それでも申し訳なさで顔を上げることができない。
「ごめんなさい」
私はそう呟いた。心の底から彼に謝罪した。
きっとデューク様からしたら必要のない謝罪なのだろうけれど……。
一呼吸置いた後、デューク様の声が聞こえた。
「何故アリシアが謝るんだ?」
「……私は自分の夢を叶えたい為に、ウィルおじさんを利用しました。自分の幸せの為にウィルおじさんの死が早まったのかもしれない。……そこに因果関係があるのかは分からないけれど、それでも自分の気持ちに区切りをつけることができなくて」
自分の言っていることが無茶苦茶だと分かっている。
今の私はきっと頭が働いていない。……そんな状態でデューク様と対話するのはやめておいたほうがいいわ。
勝手に罪悪感を抱いている者の謝罪なんて鬱陶しいだけかもしれないもの。
「伯父上にもう一度幸せを与えたのは他でもないアリシアだ」
疲れ切った私の脳に甘くて優しい言葉が響いた。私は頭を上げて、デューク様を見つめた。
彼はどこか切なそうな顔を浮かべている。
「君はどこまでも俺を頼ろうとしないんだな」
こんな表情をさせたいわけじゃない。ただ私は…………。
「それが私なので」
私は新しい仮面をかぶり、無表情と共に冷たい声を発した。