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少しの間、言葉に詰まった。
今、ここで皆の前に出て行ってもいつも通りの「ウィリアムズ・アリシア」でいられるか自信がない。
デューク様の前では自分の弱さを曝け出してしまいそうになってしまうのだもの。
それに、ヴィクターの前でも素の私でいられる。正直、今あの二人の前に出たくない。
「アリシア様?」
シーナは何も答えない私の方を軽く覗き込んだ。
まるで小さな女の子を心配するような表情で私を見つめている。……こんな顔を向けられたいわけじゃない。
…………「ウィリアムズ・アリシア」でいられる自信がないなんて言っている場合じゃない。
私はどんな時でも「ウィリアムズ・アリシア」でいなければならないのよ。それが孤高への道だとしても、本望だわ。
私は気を引き締めて、表情を作った。大切な人を失ったのだと周りに決して悟らせない。
「ええ、もちろん」
私の確かな声にシーナは一瞬固まった後、呆れた様子で笑った。
「クシャナ以外にもこんな瞳を持つ人がいたのね……。頭が上がらない相手は一人で十分なのに」
彼女はボソッとそう呟いた後、真剣な瞳を私に向けた。
「その強い意志はこれからもアリシア様を成長させるでしょう。……ただ、その意志は諸刃の剣です」
シーナが言いたいことを理解出来たようで理解出来ない私がいた。
私のこの意志が時に私の夢を阻む存在になり得るということかしら?
先のことはまだ分からない。今、私が成長できる要因となるのならば、この意志を利用させてもらう。
「肝に銘じておくわ」
私は背筋を伸ばし、部屋の外へ出た。
その瞬間、いきなり大きな体にギュッと抱きしめられた。何が起こっているのか分からず、「え」と声が漏れた。
…………何が起こっているの!?
私の目線の先には、目を見開いて私を見つめるヴィクターとレオンがいた。クシャナはまるでこうなることが分かっていたのか、表情を変えずに冷静に私たちを見ていた。
デューク様に力強く抱擁されていることを理解するまで少し時間がかかった。
まさかデューク様がこんな行動に出るなんて思っていなかった。クール王子のはずなのに……。
お兄様たちに話しても「夢じゃないのか?」って言われそうな状況だわ。
「生きてて良かった」
デューク様の口から出た言葉に私は本当に彼に心の底から想われているのだと実感した。
きっと、クシャナがあの訓練場で私が命を落とす可能性があるのだと言っていたのだろう。もし、私があのままウィルおじさんに負けていたら私は花畑の上で死んでいた。
王子様に愛されるのも悪くない、と思ってしまう。
「心配して下さりありがとうございます」
そう言ったのと同時にレオンが「主」と私をじっと見つめていた。
「目が……」
レオンのその言葉で、私はデューク様の大きな腕の中から解放された。